大阪音楽大学教授、中村孝義氏に
音楽との出会いについて聞いてきました

中村孝義氏に聞く「先生と音楽との出会い」

中村孝義氏
1948年、大阪に生まれる。
大阪府立大手前高校を経て関西学院大学文学部卒業。
同大学院文学研究科美学専攻博士課程終了。
音楽美学、西洋音楽史専攻。
1985年から1987年、旧西ドイツ、ヴュルツブルク大学に留学。
著書『室内楽の歴史 音による対話の可能性を求めて』にて、「ミュージック・ペンクラブ賞 新人賞」受賞
現在、大阪音楽大学教授。
著書
『室内楽の歴史 音による対話の可能性を求めて』(東京書籍)
『西洋音楽の歴史』(東京書籍、共編著)
『音が織り成すパフォーマンスの世界』(昭和堂、共著)
『鳴り響く思想 現代のベートーヴェン像』(東京書籍、共著)
その他論文、CD解説、CD、演奏会等の音楽批評多数。
精緻にして臨場感あふれる氏の批評には、定評がある。

最初は特に音楽が好きだったというわけではなかったですね

 僕は中学三年までは、特に音楽が好きだったというわけではありませんでした。どちらかといえば、音楽は苦手な科目で、中学の成績表の中では音楽だけが汚点になっていました。他の科目の成績は悪くないのに音楽だけが足を引っぱっているような状態が続いて、それはもったいないというので、音楽に対する苦手意識を克服するよう、アドバイスをくださったのが、当時の担任の先生でした。

 最初に手をつけたのは楽典でした。楽典はそれこそ覚えるだけで結果が出るので、楽典に関してはすぐにも克服できました。ところが意外にも大変だったのが、楽譜を見てその曲が何かを当てるという問題でした。なにしろ、それまで専門的に音楽を学んだわけではありませんから、楽譜を見て音楽が浮かぶというところまでいかなかった。そこで先生が、学校の鑑賞用レコードを貸してくださり、そのレコードをとにかく聴いて音楽を覚えることにしたんです。

不思議と、聴いているうちにだんだん楽しくなってきた

 最初はそれこそ勉強と同じで、何度も練習問題を解くように、レコードを何度も何度も聴いていたんです。ところが何度も聴いているうちに、だんだんと音楽を面白いと感じるようになってきた。すると、人間とは不思議なもので、今聴いているだけの分量では満足できなくなり、いろいろな曲が聴きたくなってきます。今から考えると、これが僕にとっての音楽との出会いでしょうね。

 高校に入ってしばらくはテニス部に入っていたのですが、諸般の事情から退部したことによって、時間に余裕ができるようになりました。その余った時間を音楽に費やすことになりまして、自分でもレコードを買い集めるようになってきました。

 僕と同じ年代の人ならば、おそらく同じような経験をした人もいることでしょう。当時レコードはまだ安い品物ではなく、日本橋のワルツ堂などの廃盤セールで半額のレコードを買っていました。ですが、それでも多くのレコードを買えるわけではなく、レコードを買うために昼食の費用を削ったり、電車やバスに乗らず、その分浮いた費用をレコードに回したりと、大変な苦労をしたものでした。それだけに、その時買ったレコードに対する思い入れは、今でも強いですね。

そして進学、音楽の道へ

 高校も卒業を向かえる学年になり、進路を決めなければならなくなりました。僕のいたコースは理系だったので理工系に進むのが普通でしたが、僕のなかでは本当に音楽が大きなものになっていたのです。高校ではフルートも吹いていましたが、専門的に学んだわけではなく、音楽演奏以外で音楽を学べるところを調べたところ、関西学院大学文学部の美学科で音楽学を学ぶことができると知りました。ですが、進路の決定は一生を左右する大きな選択なので、大変に悩みました。結局は、自分の人生なのだから自分の好きなことをしたほうがいい、と思い、音楽の道を選びましたが、この時に反対せず、僕のやりたいように自由にさせてくれた両親には、本当に感謝しています。

 大学に入ってからは、オーケストラに所属しチェロもレッスンについて学び、また恩師である谷村晃先生と出会ったりと、刺激になることが多く、充実した日々を送りました。この高校卒業時の選択が正しかったのかどうかはわかりませんが、結局音楽に携わる仕事に就けているという意味では、思い切って決断してよかったと思っています。しかし、僕を音楽の道に導いたきっかけというのが、中学まで苦手にしていた音楽の教科だというのが、不思議な因縁を感じさせてくれますね。

(文責:今井敏行

ちょっとだけインタビューへ トップページに戻る

公開日:1997.10.26
最終更新日:2001.09.02
webmaster@kototone.jp
Creative Commons License
こととねは、クリエイティブ・コモンズ・ライセンス(表示 - 継承 2.1 日本)の下でライセンスされています。