帰ってきた時間――再会、立花先生の入門編

 立花先生の入門編が帰ってきた。僕の初めてのラジオにおけるフランス語との出会いは、一年半前のまさしくこの放送だった。

 大学でフランス語を第一外国語としてとり、一進一退を続けながらの六年間、ようやく修了したときのフランス語の能力はまさに下降期のまっただ中。決して褒められたものじゃなかった。フランス語に関わらず、すべての外国語に関して自信を持てなかった僕は、自分のやりたいことを目指すとき、語学に足を引っ張られたくないという思いから、もう一度まじめに語学の勉強をしたいと思った。

 そして、フランス語を再びはじめようと。語学学校に通えるほどの甲斐性もない僕は、NHKのラジオとテレビの語学にすべてを託そうと思ったのだった。

 その記念すべき第一回の放送が立花英裕先生とMarie Gaboriaud先生の、C'est moi. から始めるフランス語だった。他の誰でもなく、他の何でもなく、「それはわたしです」から始まるフランス語は、非常に僕にとってうってつけに思えた。フランス語を始めたいと思う、その主体こそ「それはわたし」にほかならない。
 いろいろある言葉の中から、それはわたしです、を始まりと出来た僕は幸運だった。ひいてはそれが、フランスという国が持つ個人主義的な相へと魅かれていく、最初のきっかけとなった。

 強烈な自我と個性をもちながらも、肩を張り角突き合わせて生きるよりも、頭を低く肩身を狭く生きようかとさえ思ってしまいそうなまでにくじけていた僕に、再び自我と個性のよりどころとしての、ほかならぬ「わたし」を思い出させてくれたのはこの放送だったように思う。
 フランスへのあこがれは、まさに立花先生とガボリオ先生との出会いに端を発し、いつしかこの国を捨ててでもフランスへ、と思わせるまでにいたった。

 その記念すべき出会いから一年半を経て、再び僕は原点に帰った。
 願わくばこの一年半が、僕にとって実り多い時間だったと実感したいものだと思う。すなわち、再びの C'est moi. に始まる物語は、僕という人間の努力と成長を計る試金石である。

 願わくば今までの一年半が、そして願わくばこれからの時間が、実り多いものになりますことを。「わたし」そのものが素晴らしい結果として結実することを願って、新しい決意とともに。

le 2 octobre 2000, au Japon, Kyoto.


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公開日:2000.10.02
最終更新日:2001.09.02
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