原題:Der Himmel uber Berlin
1987年/西ドイツ=フランス/128分
監督:Wim Wenders
発売:カルチュア・パブリッシャーズ(DVD)
美しいと思う、感動して心動かされる、けれどそれを自分のうちのものと出来なければ意味がない。世界から遠く離れて、外在的であることは堪え難い。
天使のダミエルは、天使の眺望から見続けることにもう耐えられない。塔の高みから見下ろす街の、人の間に分け入っても、人の歴史はダミエルとは別に流れています。今日はどんな出来事があったと同じ天使のカシエルと語り合いながら、霊で居続けることに嫌気が差していることを告白します。自分の重さを、風を感じたいと。
天使たちの見る世界は色のない、灰色の世界です。監督、ヴィム・ヴェンダースはモノクロームのほうが本質をはっきりと映すといいます。克明に真実を映す目を捨ててまでダミエルの望んだ人間の世界とはなんだったのでしょうか。それは今、色づく現実世界から離れ、仮想空間に身を移さんとしている、私たちが失わんとするものに思えてなりません。
現実は今もなお多様で、驚きに満ち心動かされるものばかりです。けれど、僕たちはそれをモニタごしに眺めることに慣れすぎてしまいました。自分の身の回りにはなにも起こらず、劇的なことはフィクションの中にだけ起こるのだとうそぶいて、ついには自分の身に起こることさえ、違う世界の出来事のようにしか感じられなくなって。われわれこそが、ダミエルの逃げ出したいと望んだ灰色の世界に移り住もうとしているかのようです。
しかし、悲しいかなわれわれは全知でも全能でもなく、われわれの色を失った世界はむしろ事物の本質から遠ざかった無味無臭の世界。そんな世界に嫌気を差しながら、生の実感できる世界、自分たちの歴史に参加することを求め、そしてあきらめてしまっている。
そう、踏み出すことを忘れてしまった。冷たいものに触る、たばこを吸い、コーヒーを飲む。手がかじかんだらこすりあわせる。素敵なことは山とある。瀬に降りてそれに触れるんだ。
友よ、今がその時、今しかない。
評点:4
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