フスマランド4.5

表紙で買ったシリーズ その三

あるいは自身と出会うプロセス

『フスマランド4.5』
大和和紀
(KCデラックス)講談社,1998年。


 表紙にひかれて即買い。それもこれも、宇田川嘉智子のせい。けれど、その審美眼は間違ってはいなかった――と思う。

 ヒロイン、嘉智子は真面目を通り過ぎて堅物でかたくな。一昔前の優等生を、滑稽なまでになぞる女子高生。今の世相に心を閉ざしてさえいるようなカチコが、ある夜見つけた四畳半の一室。その部屋のふすまは、心に秘した願望が現実となる異世界、フスマランドへの入り口。眼鏡でちびのカチコは、フスマランドでは絶世の美女となれるのだ。

 突飛な筋に突飛な設定。キャラクターや展開も、はっきりいって類型的だ。けれど、そんな中に流れる静かな温かさは、類型的であるはずのカチコの描かれかたの健気さと、彼女を取り巻く周囲の、彼女に向ける優しさのためだろうか。

 フスマランドのおかしな住民達は、カチコを憧れと仰いでやまないし、以前同室だった真夜子は、カチコに対してはじめから好意的だった。カチコへの好意という点では、おそらく作者も同じだったろう。彼らにもまれる生活のなかで、次第にほころんでいくカチコの姿はいじらしい。

 フスマランドでの理想の自分と比べ、引け目を感じるカチコもありきたり。けれど、恋する力で願望を打ち破り、本当の自分に向きあい受け入れるカチコの独白は、単純で簡素であるだけに胸を打って、読むたびほろりとさせられる。

 つまりはカチコの、世界に出会うレッスンだったのだろう。自分を否定しながらも、良いところ悪いところもひっくるめて等身大の自己を受け入れる。それが誰もが通る道というのなら、ちょっと疲れていたり、自信が持てなくなっている人にこそ見て欲しい。きっと本当のカチコにこそ自身をうつして、共感的にあれるはずだ。彼女とともに歩む自己肯定の物語は、きっと誰もに優しく接してくれるだろう。

 ところで、理想のカチコさんと本当のカチコさん。僕には本当のカチコさんのほうが魅力的と思えるのだけど、どんなものだろうか。


評点:3+


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公開日:2001.08.31
最終更新日:2001.08.31
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