白水社ラルース仏和辞典

読むのではなく、読まれるための辞書

『白水社ラルース仏和辞典』
三宅徳嘉,六鹿豊監修/フランス・ドルヌ校閲/青井明ほか執筆
白水社,2001年。


 辞書というものは、もちろんそれぞれが長所と味をたがえて持っているのであるが、それにしてもこの辞書は他のものとは違っている。記述本文が特殊というわけではない(むしろオーソドックスで簡素である)。だからといって易しく書かれているわけでもない(構文などの略号は少し難しく、初学者には手も足も出ないだろう)。加えて収録語彙は少ないときている。だが、他の辞書にはない特性をこの辞書は持っている。それは、その語を理解するための豊富な情報だ。

 こう言うと、他の辞書には仏語理解に役立つ情報がないかのようであるが、それは違っている。それぞれの辞書は、それぞれに応じた方法で情報を展開している。だが、今まで手にしてきた仏和辞典は、フランス語を読み、理解するためのものであった。そこにある文章、フレーズを日本語にすることで理解する、その助けであった。当然辞書には、豊富な語彙、語義があふれることとなる。だが、残念ながらそれは日本語に結びつけられており、仏単語間の関連は稀薄だった。

 この辞書は、そこが大きく違っている。各単語は単独に存在するのではない。多くの関連語が表示され、それぞれの差異を明確にする訳がつけられている。語義にしても、その語のフォーカスする範囲が記述され、対応する日本語が用意されている感じはしない。形容詞だけでなく、文中の副詞の位置にまで言及するこの辞書は、つまりフランス語の単語の宇宙を理解させることを目的としている。だから、多くの単語は必要ない。生活中に現れるフランス語を、その機微とともに受け止め理解するための、基礎的な力を養うための必要最低限度の語彙があると考えるのがよい。

 仏文を訳出するにはむいていない上、一冊目の辞書とするには、多少使いづらいところもあるが、中級者以上が仏語力を高めるには最適である。仏文を読むのではなく、この辞書そのものを読む。それがこの辞書の最もよい使い方だろう。


評点:4


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公開日:2002.10.09
最終更新日:2002.10.09
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