暇さえあれば旅行したい!

旅にこそ生きる、客死もまたよいかも知れんなあ

『暇さえあれば旅行したい!――保存版・旅行にいこーらす』1から2巻
千里唱子
(ヤングユーコミックス)集英社,2001- 年。


 手帳にはいつも旅立ちとメモしてある私だけれど、生来の出不精、ひきこもり体質がそれを実現させようとしない。時に沸き上がる旅への情熱は、実際旅におもむこうとする前にすっかりしぼんで、結局つまらぬ日常にまみれている。この臆病ものっ! しかしいくら罵ってみても、なかなか日常を蹴って捨てるまでにはいたらない。つくづく駄目だ、心は今も旅の空を求めて已まぬというのに。

 そんな私にとって、本書の著者は驚異的である。今でこそペースは落ちたというが、かつては毎月のように旅に出ていたという、まさに私の対局にある人物。他のなにかに金を使う前に旅に費やすという旅最優先の生活である。人生に旅が組み込まれてしまっている。

 本書に紹介されている旅はすべて著者の自腹でまかなわれているため、著者の好みが前面に押し出されたラインナップになっている。普通の旅行記には載らないようなこともしばしば、しかしそれが実に味わい深いと感じられるのは、すべてが彼女の実際に見たものであり、さらにそれらが彼女の言葉によって記されているからだろう。人気スポットから見どころまで完全お仕着せのツアー、ガイドには抗う私だ。だが彼女はそういうつまらぬこだわりなしに、旅先を充分に満喫するすべを知っている。それなりにひどい目にも遭いながら、それでも旅の楽しみを伝えられるのは、あたかも呼吸するように旅で起こるすべてを楽しみと変えているためだろう。そのように旅することができたら、そこがいかなる土地であってもその瞬間瞬間を面白くあれるのではないだろうか。

 かくありたし。常日頃旅を思っている私に著者は、ちょっとした憧れである。旅に躊躇しないからだけではない。自由な魂をともに越境的に世界を眺めることのできる、天性の放浪者としての資質を感じられるからだ。一度死ぬような目に会ったからなのだろうか。ともあれ私は、小柄という彼女に人としての雄大さを見てしまう。


評点:4


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公開日:2003.08.30
最終更新日:2003.08.30
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