『派遣戦士山田のり子』1巻
たかの宗美
(ACTION COMICS)双葉社,2002年- 。
山田のり子は仕事において完璧である。いかなるときも慌てることなく常人の数手先を読み、無駄のない合理的行動と処理の速さを武器に最前線にて戦い続ける。他人にも自分にもすべてに対して厳しく、そしてそのプロフィールは謎に満ちている。誰も彼女の正体を知ることはなく、まさに仕事のスペシャリストとしてのみ知られるのである。
実を言うと、山田のり子のあり方は私の憧れそのものなのである。自分に与えられた仕事を完璧にこなし、あくまで私事は謎に秘したまま。誰にも弱みを見せず常に粛粛とありたい。それが私の望む自己像である。しかし現実はそううまくいくものではない。些事に振り回されてはその都度うろたえ、弱さも情けなさも暴露しながら、人の世のしがらみに引き摺られている。悲しいかな、それが私という人間――そう、私はやはり人の子なのである。
では山田のり子はどうなのだろうか。周囲からはあたかも人でないかのような評価をうける彼女だが、まれに見せる失敗や失態、コンプレックスは普通の人間のそれである。主に読者に向けてのみ開示される人間的な揺れは、彼女が本当は自分をもっと見て欲しいと願っていながら、反面人に深く関わることを怖れていることを明らかに示している。派遣戦士山田のり子の原動力とは、うまく表現できないまま鬱屈させた自分への愛情を仕事に振り向けた結果であり、仕事の成否こそは彼女の自意識と密接に重なり合っている。仕事こそが彼女であり、彼女こそが仕事である。山田のり子は不幸な仕事との関わり方をしていると、私なぞは思うのである。
だが私はそんな山田のり子のあり方に、なお憧れてやまない。私と仕事の関係は彼女ほど癒着的ではありえないが、プロフェッショナルな姿勢はやはり私の持ちたくて持てないものなのである。だがおそらくはそれだけではあるまい。私はどこかで人を求め、期待をしている。山田のり子に自己を見ることもあるのである。
評点:3+
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