日本語を反省してみませんか

広く深く、げに言葉とはおそろしい

『日本語を反省してみませんか』
金田一春彦
(角川oneテーマ21)角川書店,2002年。


 僕は常日頃から言葉に対する強い関心を忘れずにいる。正しく分かりやすい言葉遣いはもちろん、美しい日本語、豊かな言葉にこそ興味津々だ。そのせいで、日本語に関する本を見かけるとほいほい買うようになって、身辺に山と積み上げて喜んでいる。

 しかし、この日本語本というのは曲者で、店頭でぱらぱらめくるだけで、胡散臭さがふんぷんとたつようなものも少なくない。説も論もぞんざいなものに至っては、それを参考になどと思うはずもない。よく整理されて分かりやすく、言葉遣いが実直なものがよい。言葉に対し相応の敬意を示している、これは言葉を語るものの最低限の資質だろう。

 その点、この本は、安価でお手軽であるにも関わらず、非常な含蓄を持っていて、よい。なにしろ著者が、かの有名な金田一春彦ときている。言葉が平明ですっきり無駄がないのは当たり前。長年にわたって蓄え、醸成された意見が端々に才気を彩り、持論を補強し支えるための実例、用例が実に豊富であるなど、まさに博覧強記という言葉が似合う。なのに、少しの押しつけがましさも感じさせないところに、この本の美徳がある。

 しかし、さすがに著者も昔の人であるから、多少の感性の古さを感じないわけではない。それは著者による対話例に顕著であるが、著書全体を見ればいきいきと活力がみなぎっており、特に各地の方言に直接触れたという体験談に至っては、おそらく方言もぐっと弱ってしまった現在だ。その様な体験をもうできないだろう今の僕には、懐かしく羨ましいものとしか映らない。その、今ではないというところが、まさに力になっている。

 一応は日本語の本となってはいるが、読んでみればしっかりと日本人論になっているところはさすがの一言。長の時代を越えてきた言葉に見える、日本人の日本人足る所以。やはり言葉とは決して表面的にはありえず、それを使うものの内奥を明らかにする。反省を忘れず、常に真摯でありたい。


評点:4


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公開日:2002.06.16
最終更新日:2002.06.16
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