日本絵とき事典11[文化・風俗編]

日本にはまだ知らないことが山ほどあるぞ

『仏文 日本絵とき事典11 文化・風俗編』
JTB,1985年;改訂11版,2000年。


 日本に興味を持つ外国人向けに出版されている日本ガイドブック。文庫サイズで手軽な割りに意外や内容は濃く、日本人が読んでも知らないことがちらほら散見されるのだから面白い。文化・風俗編と銘打たれたこの第十一巻は、フランス語話者対象の仏語版。1985年に初版が出て、以後版を重ね今も店頭に並ぶロングセラーである。

 いかにも外国人が好みそうな日本がぎっしり詰まっている。伝統芸能、芸術の類いはいうに及ばず、暮らし、食べ物から遊びにいたるまで結構盛りだくさん。重要なのは、そのどれもが今も日本に存在しているものばかりである。また日本に独特であるもの、欧米人が見てきっと日本を感じるだろうというものばかりである。よくぞこれだけ集めて選んだなと思うラインナップには、編者の苦労が見える。あるいは旅行社旅行誌編集ゆえに気付くものもあったのかも知れない。

 日本人が見ても面白いというのは、これが旅行者の目で編まれているためだ。我々は普段、日本の諸事風物を当たり前のものとして、おざなりにしか見ていない。慣れきってしまって、目に入っても筒抜け、心になにも残さない。だからふと問われたときに戸惑う。日本家屋について説明できない、着物の言葉がわからない。なにも外国語で説明しろというのではない。日本語でもできないのである。我々日本人は、つい数十年前まで日常に使っていた言葉風物を捨ててしまって、今や日本は日本人にとってもエキゾチックである。

 さてこの本の特色はなにも古いことを書いたところにあるのではない。典型的サラリーマンや学生についても、パチンコ麻雀についてさえ書いてあるところは平等で実にいい。だが惜しむらくは流石に一昔以上前の出版であるため、相次ぐ改訂も現在に追いついていない。だが古きも新しきも一緒くたに見て、そこに今の日本を感じようという視点こそは面白く日本人にこそ勧めたい。早急の日本語訳が待たれる一冊である。


評点:3+


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公開日:2003.10.30
最終更新日:2003.10.30
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