『女には向かない職業』全二巻
いしいひさいち
東京創元社,1997-2000年。
女には向かない職業といっても女性差別じゃなくて、ミステリーの題を引いてきているだけだ。英題を見れば、似合ってないというのはほかならぬ主役、藤原瞳にとってであることが分かる。さて、藤原瞳に向かない職業とは果たしてなんなのか。ミステリー作家であるのか、それとも小学校教師であるのか。おそらくその両方だろう。
藤原瞳というのは、朝日新聞朝刊に連載されている漫画『ののちゃん』に出てくる女性教師で、あの奔放放埒な女性は後にミステリー新人賞をとり教師をやめることになっている。その藤原瞳と作家活動を巡るエピソードが集められたのが本書であり、学生時代、教師時代、作家時代と様々に語られることが実に気の利いてめちゃくちゃで、その手の女性に弱い私としては買わずにはおられなかった。世間や常識よりもまず自分ありきで、そういう心のまっすぐ伸びた様というのは見ていて心地よく、ただ多分身近にあればたまらなく迷惑なものだろう。
ともあれ、藤原瞳というこの魅力的な女性は、よくよく作者に愛されていると見える。巻末に見える初出一覧の多様さには驚かされた。新聞に始まり、学習誌、文芸誌、一般紙等々、掲載紙のジャンルを問わない展開は、いしいひさいちにとって彼女が動かしやすいキャラクターであること、ひいては懐の深さを思わせる。文壇を半ばパロディにするにも、学校というまじめな舞台をかき回させるにも、藤原瞳はその個性を発揮してよく動いて、なのにどの瞬間をとっても藤原瞳以外の何者でもない。この縦横無尽な活躍は、ふてぶてしさもさることながら、キャラクターの強さあってのことなのだろう。
だが作者がいしいひさいちであるため当然読む人を選ぶ。いかにも四コマらしくありきたりなネタが多く、その割にネームに小難しさがある、癖と灰汁が強く読みにくいなど。合わない人があっても当然なので、もしそうなら自分には向かない漫画としてやり過ごして欲しい。
評点:3
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