高天原なリアル

最高のエンターテイメント、もとねたを知るならなおさら

高天原なリアル』
霜越かほる
(集英社スーパーファンタジー文庫)集英社,1999年。


 変なタイトル。これは、この物語の第三のヒロイン、高天原かほりに由来する。一世を風靡し、駆け抜けるように消えていった高天原かほりをめぐる狂騒と策略。このちょっと非常識で、でもどこかで見たような出来事をめぐる人間模様が、二人のヒロインの目を通して描かれていく。

 どこかで見たような出来事――これはゲーム『ときめきメモリアル』にまつわる諸事にほかならない。恋愛をモチーフとしたゲームのヒロインが、ゲームから離れて仮想アイドルになるという経験を、われわれは実際の事として知っている。現実にはいない藤崎詩織を、あたかも現実の存在であるかのように支持する人間がいたという事実が、この物語にノンフィクションめいた妙味とリアルさをもたらしている。

 だけどやはり物語なので、現実と違うことがいくつかあるのだ。藤崎と高天原の人気の出方や支持層の動向はまるで違う。だが違うのはそういった瑣末事ではない。高天原をプロデュースする人間が抱いた陰謀。それがクライマックスを盛り上げる鍵として、うまく機能していた。

 とはいえ、この陰謀、ちょっと非現実的でやっぱり物語的なのだ。ファン心理を利用して関連商品を売る、これは現実的。しかしファンは、僕の藤崎もとい高天原の骨髄バンク登録呼びかけに、ほいほいとのってくれるだろうか。ましてや、それが政治的なアジテーションだった場合、どれほどの影響を社会に与えられるか。

 われわれの藤崎はたしかに社会現象として無視できない存在ではあったけれど、実際のところ世間から見れば知名度はほとんどない。コアなファンがいくら扇動にのせられたとしても、いかほどの影響も出ないのが世間なのだ。トップアイドルが選挙応援に出たとして、それが実を結ぶかね?

 そんなわけで、木戸ちゃんの野望は最初から無茶な話だったのです。とはいえ、エンターテイメントとしては抜群。あの騒動を少しでも知るなら、楽しめること請合いだ。


評点:4


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公開日:2001.09.13
最終更新日:2001.09.13
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