ギターに苦手はいろいろあるけれど、その中で特になにが苦手かといわれると、やっぱりセーハなのじゃないかね。ギターを弾きはじめてもうじき丸5年になろうかというのに、それでもやっぱりセーハは苦手なのだ。セーハというのはなにかというと、寝かせた指で持って1から6弦を同時に押さえるという技法で、英語ではバレーといったりもするのだけれど、ほら、あれだ、よくいわれることなんだけれども、ギターにおいてはFコードが最初の山になるってやつ。これ、なんでFが山になるのかというと、一般にこのコードがセーハとの初遭遇であるから。それくらい押さえられない。人によっては特訓をして指を壊し、人によっては避けて通る。まあ、コツがわかれば大丈夫なんていわれるんだけれども、指の力ではなくて、手の重さで押さえるんですよとか散々いわれて、それでできたらやってるよって文句をいう。けどここで、やれるもんならお前やってみろよ、というのは絶対の禁句で、なぜなら奴らはセーハができるのだ。
楽器によってセーハのやりやすさというのはずいぶん違っている。弦高の高い楽器と低い楽器があったとしよう。さて、どちらがセーハしやすいかというと、そりゃもう弦高の低いほうだろう。また、ナイロン弦を張るガットギターとスチール弦を張るフラットトップギター(フォークギター)でも違いがあって、両者は弦の張力がずいぶんと違っているので、当然ガットギターの方がやりやすい。同じスチール弦の楽器でも、一般に細いゲージを張るエレキギターの方がフラットトップギターに比べて楽。じゃあ、ガットギターとエレキギターならどちらがいいかというと、私はガットギターの方が楽だと思っている。理由は簡単、ナイロン弦の方が弦が太いからだ。弦が太い、すなわち押さえやすい。スチール弦、特にプレーン弦は細いので、しっかりと押さえにくい。平坦なガットギターのネックに比べ、少し山なりに膨らんでいるフラットトップ/エレキギターのネックの方がセーハしやすいという人もいるようだけれども、私には到底そうは思えない。
セーハをできるようになるには、セーハばっかり練習しないことだと思う。つまり、なるたけ避けて通るのがいい。セーハができなければ駄目だと思い込むことによって、苦手意識を肥大化させることは避けるべきで、セーハばかりに打ち込んで煮詰まってしまうくらいなら、セーハを使わないですむような曲を選ぶほうがずっといいはずだ。
私はギターを弾きはじめたころ、『22才の別れ』を一番に練習したのだが、この曲のよかったところはセーハを使うコードが出てこなかったところだ。その後、『インスピレイション』の楽譜を入手して、弾けないなりにさらっていたら、この曲にはそこここにセーハが用いられているから、なんとかそれらしくセーハをできるようになって、いい感じじゃないか。こんな風に、まったくセーハを使わない曲を中心に練習して、徐々にセーハを使う曲を混ぜていくという作戦がよいのだと思う。
けれど、こうしてなんとかセーハをできるようになったといっても、いまだ私はセーハが苦手で、ハイポジションでのセーハもそうなら、セーハしながらメロディを弾かされるようなのも苦手で、力が途中抜けてしまったりで、押さえきれなくなる。特に悪いのは3弦4弦で、4弦なんかだと指の関節の、少しへこんだところ、あそこに弦が入るというのか、音が出ないこともしばしば。ちょっと位置をずらしてやったりもするのだけれども、それでもやっぱり苦手だ。
今、練習している曲はW. C. ハンディの『メンフィスブルース』。なんとか通して弾けるようになったのだけれども、やはりこの曲でもセーハが問題となって、音がつまる、一瞬流れがとまってしまう等々。とにかくセーハがからむと曲の難度はぐっとあがると思うのだ。
とはいえ、文句はいっても弾かないという選択はないのだから、今日も弾く、明日も弾く、弾けるようになるまで弾く。そのうちにセーハができるようになったらいいなと思いながら弾く。とにかく弾くしかないのだろう。