アストリアス D. カスタム Sを受け出しにいく

 仕事が終われば、即座に席をけってロッコーマンに向かうつもりの私は、急ぎでない仕事に従事しながら、ディスプレイ右下隅の時計の数値が増えるのをじりじりとしながら常に気にしていた。急ぎでない仕事というのは、問題なく動いているプログラムのスリム化であり、別の言い方をすればプログラミング技術を高めるための勉強である。ちまちまと関数を作って、ちょうどテストが終了したときに終業のチャイムが鳴った。プログラムはオブジェクト変数エラーを出して異常終了していたが、そんなことには構わずコンピュータをシャットダウン。私は即座に神戸へ向かうのであった。

D. カスタム Sに対面してみて

 ロッコーマンにてD. カスタム Sに対面したときの第一印象は表板の白さであった。白い、抜けるように白い表板に鼈甲模様のピックガードのコントラストが印象的で、あんまり上品に思えたから気後れしてしまった。

 外観はシンプル。けれど思っていた以上ではなかった。まずヘッドにはアストリアスのロゴが見える。D. カントリーやソロ、E. C. スタンダードのロゴと同一のものである。次にボディを見ればパーフリングあり。ヘリンボーンにメイプルが巻かれていると思われ、つまりD. カスタム標準仕様のままであった。指板は注文通りポジションマークなしで仕上がっていた。きめの細かい黒檀が鏡みたいになめらかでびっくりする。天神板は多分ハカランダなのだろう、色の濃いローズウッドの木目がシックである。

 以上が外観に関する諸々。アストリアスギターに明るい人なら、どんな感じかわかっていただけるかと思う。

D. カスタム Sを弾いてみて

 弾いてみてくださいと渡されて、いやあ楽器屋で楽器を弾くのは気後れしますな。なにしろうまくないから。といっても仕方がないので、観念して弾いてみれば、思ったよりも音は繊細で、いつも弾いてるドレッドノートみたいなどしんという感じはなかった。上面に響く感じがする。出音はすごく素直だと感じた。

 ちょこちょこいろいろと弾いてみて、特に中音域はきれいに溶け合って透明だ。第6弦を弾いても、まるで中音域のように静かに響く。これはどういうことなんだろうか。ペグがオープンギアだからかも知れない。華やかに軽く浮き上がるようになるからかも知れない。けれど実際のところはまだよくわからない。

 テンションが低いので、押弦は非常に楽。そっと押さえればそれで充分で、いつもの調子で押さえるとハンマリング・オンみたいになってしまう。ナットも低く作ってあるようだ。苦手なセーハもやりやすく感じるといったら、ナットが低いからだということで、けれどハイポジションでも無理に弦を押さえつけるようにしなくていいのはありがたい。弦高はどうですかと聞かれて、過不足なし、まったく問題は感じられなかった。

 そういえばこの楽器はナット幅を45mmに広げてもらってたんだった。けれど全然気がつかない。自然な感じで握って弾ける。弦を押さえるときも、まごつく感じが全然ない。多分45mm幅と知らなければ気付かないんじゃないか。それくらい自然だった。

 ネックは薄め、特にハイポジションに行くほどそのように感じられる。けれど押さえづらさはない。直に慣れる範囲でろう。それに、ローポジションの感触でハイポジションも弾けるかも知れない。そうだとしたらありがたい。

 最も違和感があったのは、弦と弦の感覚だ。右手撥弦側、広く感じる。感じるだけでなく実際に広い。普段和音を弾く場合は、右手指をぴったり合わせた感じでやるのだが、これだとちゃんと弾けない。間隔の覚え直しだろう。けれどアルアイレで弾いているときに、隣の弦まで弾いてしまうことはなさそうだ。今までは隣の弦に触れてしまうことが多かったのだ。

 弾いていて気がつくのが、私のピッキングの癖だろう。特に第1弦を薬指で弾くときに顕著なんだが、強く弾きすぎてばちんばちんいわせてしまう。ああ、力任せに弾いてしまう癖がついているのだろう。もっと楽器の鳴るポイントに、力をうまく伝えてやらないと非効率である。なにより音が悪いし、体にも負担だろう。代金を支払った後でこの癖について話してみたら、力任せに弾くと音は逆に延びずに、手前で失速してしまうのだと。むしろ力を抜いて弾いたほうが、音は遠くへ飛んでいくのだと。確かにその通りだと思う。昔サクソフォンを吹いていたときに、散々実感したことだ。鳴らそうとしてオーバーブロウをすると、逆につまった音になってしまう。力は作用する点にではなく、支える点に利かせるものであった。だが、私はギターを弾く際の支点というのがわからない。もっともっと弾かないことには見えないだろう。

 以上が弾いてみての感想。もちろんほんの二十分ほど弾いてみただけで、またいつもとはまったく違った環境で弾いているのだから、思い違い勘違いもあるだろう。そのあたりは、今後是正していくつもりである。

 にしても、そばに立てているギターからいい匂いがする。なんの匂いだろう。木? ラッカー? 近づいてみればサウンドホールから匂う。木の匂いなのだろう。


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公開日:2004.11.19
最終更新日:2004.11.20
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