60年代70年代に歌われたフォークソングにはいいなと思える歌が多くて、『22才の別れ』もそのひとつだ。ちょっと旧い感じの男女関係が、しんみりと息の長いフレーズでしっとり歌われていて、ひとつの時代がここにも現れている。この歌に現れるような自立しない女性像を旧弊と思うふしはもちろん私の中にもあって、でも歌としては好きだ。
この時代のフォークを弾くならば必須ともいえる奏法がスリーフィンガー奏法だ。スリーフィンガーという名前が示すように親指、人差し指、中指の三本で弾く、カントリーやフォークによく用いられて特徴的な奏法だ。軽快な跳ねた感じが持ち味だが、それだけにとどまらない魅力がある。
スリーフィンガーの前身としてツーフィンガー奏法というのがまずあって、カーター・ファミリーがこれらの原形を作った。カーター・ファミリーはカーター・ファミリー・ピッキングというまた別の奏法にそのまま名前を残しているので、こちらで知っている人も多いだろう。だがツーフィンガー、スリーフィンガー奏法とはそれとは違う。
ツーフィンガーの基本は親指と人差し指、低音弦と第3弦を親指で弾き、第1, 2弦を人差し指が担当する。スリーフィンガーは親指はツーフィンガーと同様、第2弦を人差し指で、第3弦を中指で弾くところが違う。
カントリー音楽なんかを聞けばバンジョーなんかがよくやっている、トンテレテケテケトンテレテケテケというような独特の細かい反復音形が耳につく。これがまずツー/スリーフィンガーと考えて間違いない。で、そのベースリズムを担っているのがカーター・ファミリー・ピッキングだったりして、カーター・ファミリーというのがどれほど偉大であるかが分かる。
アメリカン・フォークでスリーフィンガーといえばPeter, Paul and Maryが思いだされるが、といっても私は世代がとんでもなく違っているので実はよく知らない。突っ込まれるとぼろが出るのであまり語らないけれど、彼らのやっていたのは実はツーフィンガーだったらしい。
ともかくこの時代にフォークの洗礼を受けた若者(当時)たちは、今のギター少年がなにはなくともカッティングを練習するように、スリーフィンガーを練習し、自分たちの音楽に取り込んでいった。なので和製フォークも当然スリーフィンガーができなければ様にならない。
例えばグレープ(さだまさし)の『精霊流し』のように三連主体の歌の伴奏なんかは、スリーフィンガーで8分の12拍子ぽく弾くとそれらしい。ただ『精霊流し』はちょっとスリーフィンガーとは違うやね。で、今回取り上げる風の『22才の別れ』。こちらは完全にスリーフィンガー奏法。付点主体の特徴的なリズムが独特で、これを三連ぽく8分の12拍子みたいに弾くとださださになるので、注意が必要だ。
『22才の別れ』のスリーフィンガーは基本を学ぶのに向いている。速度はけして速くないし、各拍に親指での弾弦が入るのでリズムもむしろつかみやすい。トリッキーさも少ないので、これをゆっくり弾きながらスリーフィンガーに親しむのがよさそうだ。
なので私はスリーフィンガー練習にこの歌を選んで、思いだしてはぼつぼつ弾き、休んではまた弾きを繰り返している。もう曲は覚えてしまった。歌詞もあんまり間違えない。だからギターさえあればどこでも練習できる、弾けるというのが、実にフォークらしくていいと、まあそう思うわけだ。