オタルナイの人のライブに行ってみた その1

 オタルナイの人というのは、まあ趣味でギターを弾いている人ならピンとくるかも知れないが、北海道は小樽を拠点に活動しているラグタイムギタリスト浜田隆史氏のこと。この人が大阪にやって来るということで、ぜひ一度間近に聞いてみたいと思っていた私は、馳せ参じたのだった。場所は高槻MAEDAコーヒー。2005年4月1日夜19時30分スタート。

MAEDAコーヒー店内

 私は、こうしたライブをするのだから広い店内で収容50名くらいの店を勝手に思っていたのだが、いってみて驚いたのはそのこぢんまりとした店のたたずまい。収容20名に満たない小さな店での演奏で、演奏者と聴衆の距離が極めて近い、まさにサロン風ライブという趣だった

まずはRootsからスタート

 まずはRootsの演奏からスタートした。Rootsはアイルランド、イギリスの伝承曲をレパートリーの中心としたヴァイオリン、ギターのデュオで、実は私はヴァイオリニストを以前から知っていたこともあって、ちょっと興味を持っていたのだった。はじめてRootsのことを知ったのは職場の近くで行われたライブの告知張り紙で、ふーんいろんなグループがあるのだなあと思って近寄ってみてみれば、ヴァイオリンが知ってる人だった。ああ、今はこういう活動をされているのかと驚いた覚えがある。

 演奏は非常に安定したもので、ギターにせよヴァイオリンにせよ高い技術の下支えがあることを感じさせる。実は私は伴奏をやりたくてギターをはじめたわけだが、だからこのギタリスト天満氏の演奏には興味津々で、けれどああいうのは簡単にはできないよなあと思って気落ちする。

 アイリッシュを中心にということだから、いわゆるフィードルチューンみたいなものを期待していたのだけれども、あんまりそういう感じがしなかったのは意外だった。きれいにまとめられた感じがする、そういう演奏だからトラディショナルに馴染みのない人にも聴きやすいじゃないかと思った。

そして浜田氏の演奏

 Rootsの出番が終わり、浜田氏が登場。弾きはじめたのはスコット・ジョプリンのご存じメイプル・リーフ・ラグで、なんというんだろうね、目の当たりにするとやっぱりものすごいと思った。足踏みのビートにオルタネイトベースが刻まれて、しかしそれは淡々となんてもんじゃない。スウィングするラグタイムという形容が思い浮かんだほどにのりのりの演奏で、あぜんとして引き込まれてしまった。

 浜田氏のサイトに投げ銭随筆というページがあるんだが、そこで子供が踊ったというエピソードが紹介されていて、私は実際に目の前にして聴いて、踊るのも当たり前だと思った。

 ギターはヤマハの古いやつ。ピックアップはつけられているが、アンプには通さず生音での演奏だ。古いギターらしい乾いた音(というの? 私はこういう表現はよく知らない)がラグタイムに非常にマッチしていると思う。ギターの音というと、どうしてもよくメディアに載る美しい音(それはあまりに典型的にすぎる)を思い浮かべるのだが、そういう美しい音とは違うよい音があるとわかる。私も古いギターを弾いてみて、新しい楽器にはない面白さがあると実感する日々ではあるのだが、氏が古いヤマハギターを愛用する理由というのもわかった気がする。私の友人に、やはり古い国産ギターを愛用している人がいて、だから私もぜひ一本、古い国産ギターを欲しいものだと思った。

 いや、いかん。ギター沼にはまるぞ。

 歌ものがあったのも嬉しかった。私の小樽に収録されている『忘れません』。氏は歌が苦手だとおっしゃるが、そういうのも含めてよかった。歌はうまいだけが価値ではないと思っている。

 しかし、この人のテクニックはものすごいと思うよ。クラシックやってる人とかから見たら乱暴な荒れた演奏に見えるかも知れないけれど、そんなこと関係ない。私の知りあいにも演奏家はたくさんいるが、これほど楽しそうに演奏する人はそれほど多くない。浜田氏は本当にまれな演奏家であると思った。

 浜田氏の演奏は、CDだけではわからないと思う。実際目の当たりにして、その躍動を感じて、そこに真価があると思う。多分その真価というのは、音楽の本質的な価値であると思う。一見一聴の価値ある演奏家である。

演奏が終わって

 演奏が終わって、こういう場合たいていCDが売られたりするんだが、今回もやっぱりCDが出てきて、私は最初、代表的なのを1枚だけ買おうかと考えていたんだが、場に出てきた『クライマックス・ラグ』、『オリオン』の両方を買ってしまった。買わずにはおられない気分だったのだ。

 しかし、その後が楽しかった。私はその日仕事で、ということはつまり昼休みに練習できるよう楽器を持ち運んでいるということなのだが、あからさまにギターが入っているとわかるケースを見付けた浜田氏が興味を持たれましてね、クラシックギターですかと聞かれたもんだから、古いヤマハなんですと出して見たら、途端に氏の目の輝きが変わった。古いヤマハという響きはそれほどに人の心を踊らせるのか!

 それからは、もうボーナスみたいなもんだった。思い掛けない楽器が出てきて、そこから思い掛けない演奏が始まって、残っていたものはすごく楽しい時間を過ごすことができて、ギターはこうやって色々話しながら弾くのもいいと思った。私は真面目に、練習するという感じで弾いてしまうが、それじゃつまらんなあ。そう思った。

 しかし、あんまり難しすぎるからということで普段ライブには乗らない曲なんかも披露されて、本当に貴重な感じだった。珍しい曲を聴けたのが貴重なんじゃなくて、こういうのもありますよと話しながら、和気藹々とできたことが貴重だと思う。しかし、浜田さんは本当にギターが好きだな。それに、このライブに集まった人たちも、本当にギターが好きなのだなと思った。そういう気持ちが伝わる場というのは、本当に楽しいものであるのだ。

 このギターをくれた私の友達。あらためてありがとうよ。


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公開日:2005.04.02
最終更新日:2005.04.02
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