僕が初めてコンピュータを買ったのは今から六年前、まだ短大の二回生だったころだ。時期は、第一次マルチメディアブームとでもいおうか。CD-ROMが出たことにより、マルチメディアタイトルといわれるソフト群が大量にリリース、それに伴ってコンピュータの売れ行きがどんどんうなぎ登りに伸びていった時期に当たる。
当時、Windowsはまだ3.1。Macintoshは漢字Talk7.1だった。
それ以前にもパソコンを欲しいと思ったことはあった。さらに二年前のこと、DTM専門の楽器屋でもらったMacintoshのカタログが今も手元に残っている。その当時の一番安かったマシンがColorClassic。ColorClassc IIでないところが時代だ。だが、その、今の時代から見たら激遅で貧相なマシンでさえ、とうてい手の出る値段ではなかった。
それら夢のマシンが、ようやく手も届こうかという値段まで降りてきたのが六年前だったわけだ。パソコン購入は一躍のブームとなり、それまではコンピュータとは縁もゆかりもなかったような家電売り場にもパソコンがディスプレイされた。Macintosh
Performaというエントリー向けのラインナップが用意され、WindowsではNECのCan
beというエントリー向けマシンが、仲良く電気屋に並んでいたものだった。
このエントリー向けマシン、豊富なバンドルソフトがついているというのが売りのひとつだった。マシンを買えば、その日からワープロ、家計簿、お絵かき、そしてマルチメディアが使えます、というのが当時の最大の売りだったように覚えている(今ならさしずめインターネットだろうか)。
ということは、店頭展示品にもソフトウェアが入っているわけで、実際にパソコンを購入するまでは随分とお世話になった。特にPerformaにインストールされていたお絵かきソフト、キッドピクスは面白く、調子に乗った僕は絵を描くだけではなく、ずうずうしくもハードディスクに保存までして、さらには持っていったフロッピーディスクをフォーマットし、コピーして帰ったりまでしたくらいだ(今もどこかに残っているはず)。
店頭展示品を説明書なしで、適当にいじっているうちに、僕はMacintoshの基本操作を覚えてしまった。コンピュータというものは、一部の特殊な技能に長けた人間にしか使えないと思っていた僕に、この体験は感動的でさえあった。
で、Windowsはというと、これが実によく分からなかった。といっても3.1時代、今のWindowsとはまったくの別物といってもいいくらい見た目も操作性も違うもので、その3.1で僕に出来ることはといえば、Windowsの終了だけだった。
Windows3.1は、終了するとMS-DOSに戻ってしまう。真っ黒な画面に、A:
とかが出ているあれだ。コマンドを知らない僕にはどうすることも出来ず、逃げ帰るしかなかった。僕はあきらめが悪かったので、僕の通った後にはDOSが累々と並らんだ。
この差が、僕をMacintoshユーザーにした。終了しか出来ないものと、基本操作が出来るようになったもの。選ぶとすれば当然後者だろう。
だから、僕にとってMacintoshを選んだというのはまったくの偶然のことで、もしパソコン購入が一年後、つまりWindows95が出て以降だったとしたら、僕はWindowsユーザーだったかも知れない。
偶然のように出会って選んでしまったMacintosh。今もなお、僕はMacintoshユーザーだが、その発端がこんな偶然性に捕らわれているというのは、縁の不思議さというほかはない。
なお、僕は今となってもWindows3.1は終了しかできない。95が出てくれて本当によかったと思っている。