コンピュータを買った当初は、お金がなかったせいもあって、随分とフリーウェアのお世話になった。とりあえずなにかをやってみようというときは、はじめにフリーウェアでその手のソフトがリリースされていないかを探して、そのソフトでもってスタートを切るというのが常だった。実際、フリーウェアは多種多様にリリースされていて、よっぽど特殊なことをしようとしないかぎり、フリーウェアで事足りるぐらいにラインナップは充実していた。
そもそもはじめて買ったPerforma 550からして、フリーウェア集のCD-ROMをおまけにつけていたくらい。フリーウェアへの傾倒は、はじめから予定されていたようなものだった。といっても、そのCD-ROMに入っていたので使ったのはQuickTimeムービーを見るためのMoviePlay-Jぐらいだったか。後は中途半端だったり、高度すぎたりして使うには至らなかった。将棋も入っていたのだが、半端じゃなく強かったので相手にもならなかった。
フリーウェアの入手は、主に雑誌の付録CD-ROMからだった。パソコン通信はまだまだ一般的ではなく、フリーウェアを楽しんでいたのは、ごく一部の進んだユーザーだけだったのではないだろうか。先進的ユーザーの手によってもたらされたソフトは、ユーザーグループ等でフロッピーディスク経由で配付、交換されていたという。そんなのどかな時代があったんだ。
そのころ、日本橋の電気街の、Macintoshを専門に扱っている上新電機では、そんなフリーウェアを詰め込んだフロッピーディスクをおまけにして、FD十枚パックを販売していた。値段はフロッピーディスクが一枚つく分だけ割高になるが、それでもフリーウェアは魅力だった。その頃はじめたところのチェスやりたさに、GNU Chess Proの収録されたものをわざわざ買ったりしたっけ。とはいえ、そいつは半端じゃなく強かったので、小手先であしらわれた。はっきりいって、商用ソフトを買う必要なんてまるでなかった。
愛用したフリーウェアを列挙してみると……
シーケンスソフトはMIDI Graphy、これはQuickTime音源を利用して特別な機器を必要とせずにDTMを可能とするすぐれ物だった。後にシェアウェア化されたので、その時点でバージョンアップをあきらめ、商用ソフトへと流れていった。
テキストエディタはJedit。システムソフトエディタという商用ソフトももっていたが、ちょっとしたテキスト処理ならJeditの方がずっと軽く、気の利いて便利だった。これもその後シェアウェア化されたので、フリーウェアの最終バージョンであるRev. 1.0.8b5を使い続けていた。これは、今もインストールされている。
通信ソフトとしてはComNifty、魔法のナイフ、茄子Rを愛用。Niftyの電子会議室を利用するならこれらに優るソフトはないと思っているため、バージョンアップを続けながら今も愛用している。
他にもウィルスチェッカにはDisinfectant、スペルチェックにはExcaliburというふうに、商用ソフト以上に使えるソフトもフリーウェアには多かった。現在もフォント管理用にTrueType Font Managerを使っているし、HTMLエディタとして使っているミミカキエディット(現在はmiに改称)も、実によく働いてくれている。
しかし、今はフリーウェアを使う割合が減ってきている。金銭的余裕ができたためか、精神的余裕が減ったのか、手軽に商用ソフトを購入して、これで済ますようになってしまった。商用ソフトの安定性と高機能性に、冒険心は挫かれたとでも言おうか。昔の、いつこけるか固まるかわからないながらに、一癖も二癖もあるフリーウェアを組みあわせて楽しんでいた時代は遠い昔に過ぎ去ってしまったみたいだ。
浮動小数点コプロセッサの搭載されてないLC630にFPUエミュレータをインストールして固めてみたり、むりやり3Dレンダリングソフトを走らせて、暴走させたりもした。自己責任のもとで許される無茶は、多くのことを知り学ぶことが出来たし、またなによりも楽しかった。
これからそういう楽しみを求めようとすれば、やはりLinuxだろうか。昔の自分ならまだしも、今となってはおいそれと手を出してみる気力が湧かない。知らぬ間に老いたんだな、とつくづく思ってしまう。