NIFTYをはじめとする、キャラクターベースのパソコン通信サービスが陰りを見せはじめたのは、インターネットという、より広がりを見せる情報の世界が一般に開かれたことに起因するだろう。インターネットといっても、NTSA Mosaicの末裔たちが跳梁跋扈する、WWWの世界だ。
インターネットへの入り口となるインターネット・サービス・プロバイダ(ISP)が新たに登場し、旧来のパソコン通信サービスの人気は落ちていった。それに対しNIFTYなどもISPとしての機能を持ちはじめた。僕のNIFTYに入会したのと相前後して。今からほんの五年ほど前、96年のことだ。
だが、出始めの頃のNIFTYのISPとしてのサービスは劣悪だった。PPP接続をするのに必要なDNSアドレスやなんかは一切知らされず、NIFTY Managerという専用接続ソフトを用いてPPP接続する必要があった。といってもそれは表向きで、しっかりMacTCPとPPPの設定をすまして、普通のISPなみには使ってたんだけど。
その時、愛用していたWebブラウザがNetscape Navigatorだった。バージョンは1.12I[ja]。Yahoo! が未だ上陸せず、有志により独自に立ち上げられていたYahho! が健在だった時代。Microsoft Internet Explorerはまだ影も形もなかった。代わりに富士通がローカライズしたInfoMosaicなんかがあって、これからどうなるかわからないという雰囲気がぷんぷんしていた。実質的にはNetscapeがシェアの大半を占めていて、ベンチャービジネスの成功が華々しく、そういったネットを取り巻く環境が楽しくてしかたなかった。
今から考えれば信じられないことかも知れないが、当時、Netscape Navigatorは有料だった。店頭で買えば五千円くらい、NIFTYでダウンロードもできたけれど、けっこう取られた。だから僕は、モデムを購入する際にNetscapeがバンドルされているかどうかを最大の判断基準とした。とにかく、余分に金を費やしたくなかったのだ。
あの時分のWebは面白かった。よくわからないサイトが本当にいっぱいあった。当時はPerforma550という遅いマシンで、メモリは8MBしか積んでいなかったのでWebは少々重荷で、頻繁にアクセスしなかったけれど。Web上で全国通販をしているうどん屋があったり、本家Yahoo! が上陸してきてYahho! がじり貧になったりして、今のWWWにはないのどかさがあった。
WWWは採算が見込めるような場所ではなく、本当に好きでやっているという、そんな心意気があふれていたんだろうね。研究室のコーヒーメーカーのコーヒー残量を、リアルタイムで表示するといった意味不明なサイトが大人気で(僕も見に行った)、件のうどん屋もインターネット通販は赤字価格で運営されていた。htmlの表現力はまだまだ未熟で、どのサイトも縦長の巻物状態。それでも今以上にわくわくしたのは真新しかったからだけだろうか。
今のWWWを取り巻く環境は妙にぎらぎらしていて好きじゃない。でも自分もそのぎらぎらを担っていることも知っていて、心苦しいかぎりだ。それで、あえて時代に反したくなって1.12Iをインストールしてみたら、今の環境では走らなかった。