それをもらったのは1999年も末に差し掛かろうかというころ、今から一年半ほど前のことだ。コンピュータに詳しい知人が引っ越しに際し、あまりにものが多すぎて困るので処分したいのだが、なにしろ初めて持ったコンピュータで愛着もあるため捨てるに忍びない、もらってくれないかというのを二つ返事で引き受けたのだった。
機種はPC9821 Ce2。恐ろしいことにスペックはほとんど知らない。わかっていることはというと、ペンティアムは載っていないこと、ハードディスクは容量の大きいものに換装、パーティションが切ってあること、OSはWindows3.1からWindows95にバージョンアップされていること。CPUは486と推測するがクロック数もわからなければ、搭載されているメモリ量も未だに知らない。それでも、有用に使って欲しいという前所有者のお願いだった。
しかし、どう使えば有用な用法といえるのだろうか。それこそ今までMacintoshを中心に使ってきたため、Macintoshだと利く鼻もWindowsには働かない。それでも職場ではWindowsを使っているために、正直Windows自体になれるには役立ってくれると思われた。
しかし、そのWindows機にはソフトがひとつも入っていなかったため、使えることは極端に限られているし、実際の実務には使い慣れたMacintoshがあるため、一向にWindows機は使われないままだった。いや、新しくDOS/V機を買ったため不要になったからと、別の知人がくれた98ゲームを遊ぶには使っていた。あくまでも、レスポンスのよさを期待してDOSで使っていたのだが。
その98機が突如脚光を浴びる日がやって来た。というのは、一つ目の職場で、かつて作られたデータベースファイルのフロッピーが読めない、なんとかデータを継承できないだろうかという話が持ち込まれたためだ。
他部署のためわからないが、ワープロで作られたという話。始めはワープロ専用機で作られたものかと思い、ワープロ専用機用のコンバータソフトを探していたところ、すでに退職していた前担当者をつかまえた館長が、それは「桐」で作られたものだという情報をつかまえてきた。
「桐」なら知っている。だが「桐」はあくまでもPC用ソフトのはず。それが読めないということは、そのデータはPC98時代の遺産という疑いがある。キーワード「桐」でネットを検索、最新バージョンの「桐」体験版をダウロードできることがわかり、後はデータが到着するのを待つばかりになった。
到着したフロッピーディスクは、やはり職場のWindows機では読めなかった。恐れたとおり、PC98の1.2MBフォーマットなのだろう。ならば――
フロッピーを借りて帰り、PC9821 Ce2に挿入すると果たしてメディアは認識された。1.44MBフォーマットのディスクに、いちいちファイルをコピーし、職場でダウンロードした「桐」体験版を通じてCSVファイルに変換、現用のExcelに読み込ませることにも成功した。こうして、図らずもうちの98機が役に立ってくれたわけだ。
ようやくPC98をくれた前所有者との約束を守れたような気がする。