ICO

○言葉少なのボーイ・ミーツ・ガール物語

【タイトル】 ICO
【発売元】  SCEI
【ジャンル】 AVG
【価格】   2001.12.6発売 \5,800
【ハード】  プレイステーション2


 少年が少女を連れて逃げるという説明がすべてであろう。ゲームとして語れば平凡な佳作という評価を出ない。にもかかわらず、本作は間違いなくオリジナルの作品である。

 他のものと本作を区別するものは明白である。アクションゲームとしては群を抜くものでなく、謎が秀逸というわけでもない。物語は単純な紋切型であり、どこかで見たなにかを思いださせるありきたりさが目に付いた。しかし少女とともに逃げるというその点が違っていた。

 子どもの頃見たアニメや冒険小説の、強い少年がか弱き少女を保護し助けるという、伝統的ロマンが形になっている。古くさいと思うかも知れない。だがなにか心に欠けるところのある僕らには、少年時代の夢よ再び、懐かしさとともにあふれる思いがある。手を引いて連れられるばかりの少女の、手にしっかりと残る重み――、それが格別。本作のすべてである。

 だから僕は理性ではこれを否定する。だが感情では否定できない。

以上400文字でした。


 以下、無責任な感想をいくつか。

良かった点

  1. ヨルダの存在

     ヨルダというのが少女の名前なのですが、この少女の存在がこのゲームのすべてです。

     基本的になにをするわけでもなく、少年に付き従うばかりの少女。さすがに謎解きでつまっているときにはヒントを出してはくれるのですが、それでも基本的には戦うでもなく自らなにかを切り開くでもなく、少年に付いてくるばかり。いや、少年が無理に引っ張ってるのか。そんな感じの女の子です。

     ですが、この子がいるからこのゲームが生きてくる。この無気力ですべてにあきらめたみたいなところのある少女を、なにごとにもくじけない少年が助けようというところにロマンがあって、例えば『未来少年コナン』なんかに懐かしさを感じる人には堪らないわけです。あるいは、少女同様自分の今に疑問を持って立ち止まっている人なんかには、彼女はもう他人事ではなくって、俺がやらねば誰がやる、今助けてやるから待ってろってな具合に奮起してしまうわけです。――その先には、他でもなく自分が誰かに助けて欲しいという屈折した願望があるわけなのですが。

     僕は癒しなんてものを信じませんが、それでもこのゲームは癒し系であると認めるわけです。嫌いじゃないです。すごく好きです。疑問を感じながらも、好きであることは否定できないのです。

  2. 音の存在感

     音楽も含めて、効果音が非常によく考えられています。城の上空を吹き抜ける風の音や、流れる水の音。それらが、直に自分が聞いているかの感じでなってくる。こういうところへのこまやかな心遣いは、正直平凡の域を超えています。世界をつくりあげるのは上手ですよ。

     オープニング前のデモ映像にかぶさる、中世っぽさあふれる音楽も白眉。実に音に関するセンスはいいです。

  3. 美しい風景

     風景は美しさが素晴らしい。石造りの建物。芝生、森の風合い。見えないはずの風も美しいと感じます。

     ただ、高所での作業が多いもんだから、高所恐怖症の人にはちょっと堪えられないかも知れない。僕も若干高所恐怖があるかも知れないと、このゲームをやって思いました。ぐらっと来たとき、小さく悲鳴を上げる少女に同期して、自分もはらはらしてしまう。やっぱりよくできているといわざるを得ません。


ちょっと困った点

  1. 謎解きに関して

     基本的に、僕は不親切な謎解きには耐性があるので、このゲームに出てきた謎に不満を持つものではありません。基本的には、動きそうなところに着目すれば、あるいは他のステージにないものに気をつければ、それがまんま答えだったりして、むしろ謎は簡単。身近で片づく親切設計です。

     ただ、バリエーションが少ないです。はっとするようなうまいものがあると思えば、それが何度も何度も出てきたりする。最初こそすごいと思っても、後半のものは基本的に最初のものの焼き直し、バリエーションです。複合技だったり気付きにくい場所に配されているだけで、基本は同じ、ちょっと飽きかけます。

     惜しいですね。謎解きがメインでないと割り切れば納得しますが、それにしても惜しいです。

  2. アクションに関して

     基本的に、僕は不親切なアクションには耐性があるので、このゲームのアクションに不満を持つものではありません。むしろ納得のいく挙動の方が多いといえますし、操作性もそれほど悪いとは感じませんでした。純粋アクションゲームでもないし、一秒一瞬を左右するような局面もまずないのですから。

     でも、ICO独自のアクションルールに慣れないと、どうしても越せないところがあるのです。鎖を揺らしてのジャンプ。どの高さくらいからジャンプすれば届くか、それが分かりにくいところがあって、何時間も死に続けました。天井の鉄棒に飛びつくだけのアクションですが、ちょっと軸がずれたために落ちたりします。落ちたら再びそこまで行くのが億劫です。いらいらしました。上下する機械に助けられて大ジャンプ。タイミングを掴むのに何時間も掛かりました。その間、ずっと飛んでいます。憂鬱になりました。

     なんかね、下手を棚上げしてみたいな感じですが、なんかやりにくいシーンがあるんですよ。ちょっとおまけしてとか思うときがあるんですよ。

  3. 敵に関して

     時折現れる、影のような煙のような敵。はっきりいって、もっと攻めてこいやと思いました。

     もっと頻繁に現れて、もっとアグレッシブに立ち向かって欲しい。お前ら、敵としてやる気あるのかと思ってしまった僕は、少々血の気が多いのかも知れません。

     とにかく、もう三倍ほど攻めてきて欲しかった。手ぬるいです。

  4. ヨルダに関して

     初回プレイ時には、ヨルダの話している内容が分からないようになっています。だもんで、一体ヨルダは少年イコの脱出に同意して付いてきているのか、それとも無理矢理に連れられているのかが分かんなくって、ちょっと戸惑ったりしましたっけ。いや、ゲームのルールを考えれば、無理矢理連れ回しているという理屈は成り立たないでしょう。ですが、たまに不安が兆す時があったのです。

     基本的になにがしたいのか分からないヨルダ。その手を取って歩きだすイコ。ほほ笑ましい光景なのですが、まれに無理に引っ張ってるみたいな挙動になって、やっぱりイコ――自分はヨルダの思いを蔑ろにしているんじゃないかと不安になるのです。

     こんなことを気にするなんてと思うなかれ。というのも、こういうところに思いをいたらす人にしかこのゲームは受けないでしょう。だから、もうちょっとヨルダの意志が見えればよかったと思います。もうちょっと見えれば、ヨルダの意志も尊重してあげられたのに。

     もうひとつ。基本的に僕は、女性の意志の発露がないという形式を好みません。この点でこのゲームはジレンマでした。

  5. エンディングに関して

     初回と二度目のエンディングはもう少し違ってもよかったんじゃないかと思うのです。一度目は最終カット抜きの悲劇的ラストでもいいじゃないですか。それでもって二度目はハッピーエンド、みたいな差があってもよかったと思います。

     基本的にしんみりとしたハッピーエンドが好きなので、あの終わり方に文句はないのですが、一言だけ。


 ある夜見た夢が切っ掛けになって購入したICO。夢の少女とヨルダは明らかに異なっていたので、夢とはまったく別物としてプレイすることになってしまいました。でも僕には面白かった。僕にとっては二重丸のゲームです。

 ところで、イコよりも年上と思えるヨルダ。好きなお姉ちゃんの手を引いて、自分の興味あるものを見てもらいたいと思う少年みたいにイコを解釈すると、ほのぼの感がいや増してきます。はいはい言いながら、お姉さんは少年の後を追っていくわけです。


ゲームゲームゲームへ トップページに戻る

公開日:2003.01.08
最終更新日:2003.01.08
webmaster@kototone.jp
Creative Commons License
こととねは、クリエイティブ・コモンズ・ライセンス(表示 - 継承 2.1 日本)の下でライセンスされています。