「鳥は空を飛ぶけど
寒くないんやろうか」
空を見上げて
少年が言ったそのとなりには
一人の少女
少女は
少年の言葉に耳を貸したものの
答えはしなかった
少女はただ
うつろな目を空に向け
鳥を見つめて
「そうね」とただ
つぶやくように言っただけ
少女はじっと
空を見つめて
「空の色が
昔に比べて
そらぞらしいわ」
と言って、笑って
かすかな笑いのその後に
「わたしが子供だったときは
もっと青が鮮やかだった」
柔らかい声でささやいた
少年は少女の目を追って
晴れた空を見るけれど
少女の見ている空とは
たぶんちがう空だった
少女は
そのうつろな目に
精一杯かすれた空を
取り込んで
どこからも吐き出せずに
少女のなかには
重りのように
ヘドロのように
その空というものが
たまっているのだろう
このままでは
空の毒で
少女が死んでしまうと
思った少年は
少女のかたに手をかけて
ゆっくりと歩きだした
少女のうちまで
送っていった