占井 敏行
知る人ぞ知る、今井は占いをしたりします。それもタロット占い。占いに手を染めたのは、あまりにも現実が思うようにいかなかったから。せめて予測できる範囲なら納得しようもあるけれど、現実というやつは軽く予測を超えていってしまう…… こりゃいかん、現実を超えるようなことを相手にするには超現実的手段を持ってするしかない、こんなのが占いに手を出したいきさつでした。
でもどうも信用しきれないのが占いというやつで、でもそれでもそこそこあたるところが不思議。信用してないくせに占うなんて、まったくもってうさんくさい話ですが、持ってる特技は生かさねばならん。そういうわけで、学祭で占いの店を開いたのでした。この事実を楽理のみんなは、何人知っていたかな?
どうせお客も来やしないだろうと高を括っていたら意外や意外、一度お客さんが来るとそれが呼び水になって、二日目は朝十一時から夕方六時過ぎまで、二日目は二時頃から夜八時半の学祭出店終了時刻ぎりぎりまで、お客さんが文字どおり途切れないほどの大盛況ぶり、暇対策に持っていった本を読むどころか昼ご飯を食べる暇もないという有様でした。
相談内容は、学生中心だったこともあってか、進路、恋愛についてが最も多く、やはり仕事と恋は人生をいかに生きるかにおいての大問題なのだと実感。よくある相談であっても、そうでなくても、それら相談の一つ一つの向こうには一人一人の思い入れがあるわけです。どの相談も当然ないがしろにできるわけもなく、それらに真摯に向き合うという体験は、たかだか二十五年の人生、大した経験をしてきたわけではない自分にとって、何人もの人生に接しそれらを追体験するという貴重な機会の連続でした。
クラスの友達に知られないよう早朝にやってきた中学生の女の子の恋愛の相談、宗教に勧誘してくる友人を切り捨てるべきか否か葛藤する大学生、職場での意見の対立に悩む社会人、若いお母さんの障害を持たれたお子さんの将来の相談、自分の夢の実現……
人間というのは泣きたいくらい浅はかで、見えない未来を少しでもかいま見たい、知りたい、その一心が占いという不確実で曖昧な未来予知の手段を生み出さしめたのでしょう。誰もが順調な人生、幸せな人生が送れるように願います。けれど不安や苦しい現実は已むこともなく、細やかな願いさえも叶わなかったりする。そういった苦境の中、些細なことに一喜一憂しながら生きていくことのいとおしさ、まっすぐに生きようとする大切さを思ったのです。その思い故ゆえに、この二日間の占い生活で出会ったいろいろの人たち、その人たちのこれから生きていく人生に、なるたけ善いカードが出ますようにと、いまだ祈らずにはいられないのです。
(初出:楽理クオータリー)