あれは高校受験の帰りだったろうか。衝撃的な写真に出会った。オカルト誌の特集、人体発火現象の恐怖。足首だけを残して燃え尽きた女性の写真が載っていた。あまりにも有名なものなので、知っている人も多いのではないだろうか。
原因は未特定ながら、体内の醗酵ガスあるいはプラズマのせいではないかと、いくつかの推測がされており、この原因不明ということがことさらに恐怖をあおった。事件に立ち会った証言者の言によれば、それは突然であり、あっと言う間に燃え上がった火が被害者を包み、そのまま燃やし尽くしてしまったという。しかも、現場に火の気はなかったという。
僕は恐怖に震え上がった。そんな怪現象が、もし自分の身にふりかかったら。いつ起こるかわからず、発火すれば逃げようもない。数日の間、頭からその記事のことが離れなかった。
とはいえ、この現象はもう解明されてしまっているそうだ。火は突然燃え上がるのではなく、火もとから被害者に燃え移る。だが、仮に火がついたとしても、人はそう簡単に燃え尽きてしまうようにはできていない。
その仕組みはこうだ。なにかのはずみで服に火が燃え移った被害者は、そのショックから気を失ったと推測される。現場はほぼ密閉された状態で、空気の流入が起こらないことが前提だ。火は被害者を燃やしながら室内の酸素を消費してゆき、ほぼ無酸素状態の中で、炭を焼くようにして被害者を灰に変える。服はあたかもロウソクの芯のように、被害者の身体を燃料として燃してしまうのだ。そのため、手や足先といった末端部分が燃え残るのであり、火が燃え上がらないために、室内に類焼することもない。酸素を使い尽くして火は消え、後から見れば火の気がなかったかに見えるというわけだ。
仕組みがわかればどうということもない。恐れることなどなかったのだ。けれど、こうして意味不明な恐れが失われていくというのも、なんだか悔しい気がして仕方がない。