夜にうごめく

 寝入ろうとしたその時、不意に聞こえた扉を引く音に一瞬で覚醒させられた。戸締まりの確認はしただろうか。誰かが侵入したのでは。暗闇の中で不安ばかりが大きくなり、階下に耳をすますと、ひたひたと忍ばせて歩く足音さえ聞こえてくるような気がした。昨今の、メディアを騒がす異常な事件が脳裏にちらついて、恐怖が想像を後押しした。もし侵入者なら、派手に音を立てる建て付けの悪くなった引き戸は嫌うはずだ。しかし異常者なら、そういったことを気にかけはしないだろう。

 考えてばかりいても埒が明かない。起きだすと階下に降りていく。わざと無造作に、電燈を次々と点灯させて、階段を下りていった。不意に未詳の敵が現れたとしても対処できるよう、いろいろと頭の中には架空のシチュエーションが現れる。階段を廊下を過ぎ、侵入場所と思われた窓の締まりを確認し、居間に入り台所を確認し、誰か隠れられるようなスペースのないことを確認して、自室へと戻っていった。

 しかし、横になればなお意識は冴えてくる。耳には戸外の蝉の声と、再び階下を動き回る気配がさわる。家人が部屋から出たような気配はなかった。やはり誰かがいるのだろうか。物取りが目的なら、わざわざ眼前に出て自らを危険にさらすのは得策ではない。しかし、我が家を踏みにじられるままにしておくのも口惜しい。自分のテリトリーが荒らされたのなら、それを守る義務は生じないだろうか。

 再び起きだす、今度は音を立てないようにだ。階段を下りきったところに木刀が立て掛けてある。それを取れば、幾許かの有利は生じるだろう。ふすまを音も立てずに開け、足音を殺し階段を下りる。泥棒といえど、灯がなければ働けないはず。だが階下には灯さえ、影さえもなかった。

 その後もう一度降りた。まんじりともせず夜明けを待った。目を覚ましたからには寝入っていたのだろう。胃ばかりが痛かった。

 おいら、ノイローゼかなんかなんだろうか。


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公開日:2001.07.23
最終更新日:2001.09.02
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