世の中って、ほんとにうまくいかないなって思います。大それた望みがあるわけでもないのに、それさえうまくいきません。特に人間関係なんかがそう。思ったとおりに運ぶなんてこと、まずないです。昔はそのたびにかりかりしていました。けど、世の中は自分の思うようにいかないものだと思うようになって、随分楽になったなあって思います。
世の中思い通りだなんて昔も思ってなかったけれど、それでも少し期待しているところがありました。それは人に対してもそうだし、世の中に対してもそうでした。こうなるはずだと、こうしてくれるだろうと、時にはそうなって当然だというような不遜な考えさえ持ってました。そんな頃は、やっぱり今よりずっと生きにくかったです。腹も立ちました。人とぶつかることもずっと多かったです。
けれど、歳をとったからなのか、それともあまりに思い通りにいかないからか、それほど期待しないようになってしまいました。期待するから失望するのです。だったら、はじめからなかったものと思えば、人は自分にいい顔をしてくれないものだと思えば、世の中は自分に辛く当たるものだと思えば。そうやって、自分の人生から少しずついろんなものを捨てていきました。
はじめからあきらめ気分の人生。さぞつまらなそうですが、実はそうでもありません。ちょっとしたことで喜べるようになりました。お気に入りのなにか――人でもなんでも、に出会えると、すごく嬉しいです。美しいものに触れるだけで涙が出そうになります。たまの人の親切が沁みます。「有り難い」という言葉の意味が、とてもよく分かるようになりました。
今では、この世は自分のものでないとさえ思っています。そう思えば、怒ることもなくなります。いつもにこにこは出来ませんが、それでも自分は仕合せだと思っています。ただ、ちょっと捨てすぎたためか、ここぞというときに頑張れません。それだけはちょっと困っています。