普通の生活をおくっていると、世界で唯一だとかそういうものには縁がないのが普通です。だって日常のすぐそばに、世界にふたつとないような貴重品が転がっているなんてことは、普通どう考えてもありそうにないものです。もちろん僕もそんなものとは無縁の生活をおくっていて、それはそれは気楽なものだったのですが、ところが突然そういうものと遭遇するはめにおちいってしまいました。
僕は音楽関連の資料を整理するところで働いているのです。そこでの僕の役割は、主にデータの整理といった、実際のものよりもその影をどうこうするというものでありました。データといえどおろそかには出来ないのではありますが、かりにそれを壊してしまったとしても、めったに取り返しがつかないなんてことはありません。バックアップさえしっかりしておけば、あるいはバックアップなどしていなかったとしても、なんとかなるようなものばかり。本当に気楽なものです。
それは昼にさしかかろうとするころでした。われわれを管理する人がやってきて、紙袋を机において言いました。
このレコードを、保存用としてDATにおとし、その後CDにしてください。世界にもう一セットしかない貴重なものと聞いています。
世界にひとつって、まじですか? いくらなんでもそれは言い過ぎだろう。出版されていたものなんだから、まだ他にもあるに違いない。その時はそう思っていたのです。ところが仕事が終わろうとするころ、その道の専門家が二人やって来て、そのSPの話をするのです。
誰もがその存在を知っていて、誰もが基礎資料としてその名をあげるのだけど、その誰もが見たことも聞いたこともないというSP。
まじですか? それを僕が扱うんですか? SPって大変割れやすいものと聞いています。
今日はその重圧に堪えかねて、酒を飲んでしまいました。梅酒ですが、大変たくさんいただきました。なので、文章がへべれけです。