戸棚の奥の漫画

 どうにも寝つかれないで、真っ暗な中でもんもんと連日の更新のことを考えていた。どうにも書くことがないのである。困っているのである。仕方がないので、描こうとして一向に描けずにいる絵でも描いてみようかと、描きかけでうっちゃってしまった下書きの何枚かを想像にのぼしていたところ、ついぞ忘れていたものを思いだしたのだった。それは昔、十年も前になるだろうかに、遠くに越した友人との手紙のやり取りのために描いていた漫画であった。B5の用紙一枚に描く、数コマ仕立ての漫画。主役の女の子の名前は忘れたことがないのだが、脇方の子の名前が思い出せない。えり子というのは思いだしたのだが、肝心の姓が出てこないのは痛恨だった。姓にこそ意味があったというのに――

 記憶の減退にショックを受けながら、どうにも確かめずにはおられない気持ちになった。その漫画はすべて、きちんとファイリングをして一番上の戸棚に大事にしまってある。それを夜中に取りだして、数年ぶりにあらためて見たのだった。

 漫画といっても、たわいもない手遊びである。絵がうまいわけでもなければ、なにか気が利いているわけでもない。当時傾倒していた、チャールズ・シュルツのピーナッツ(谷川俊太郎訳)めいた台詞まわしが、往時を思い起こさせてひどくよい。ただこんなでも、いろいろ考え考えて描いたのだ。友人とのやり取りは一週一通がペースだったので、自然その漫画も週刊である。忙しくてもなんとか時間を作り、たとい風邪で熱を出していたとしても、無理矢理週刊を守っていたところが実に僕らしい。人が見ても面白くないだろうそれも、僕にとってはこうして楽しみとなってくれる。少々気恥ずかしくもあり、くすぐったくもあり、けれどすべてが懐かしい。

 それは一枚の下絵を、ペンで二枚にトレスしたものである。色鉛筆で彩色し、一枚を友人に、もう一枚を手元に置いた。大切なものなので、公開する予定はない。


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公開日:2002.07.22
最終更新日:2002.07.22
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