その店は値段が安いことで有名なのだが、加えて店主のおやじが変わっているということでも有名なのだった。変わっているといっても、頑固というわけでも偏屈というわけでもなく、ましてや変人でもない。むしろ人当たりがよく、いつもにこにこしている柔和な人柄のために、誰からも好かれていた。
扱っている商品は主に日用品。鍋釜、食器、調理器具の類いもあれば、衣料、小物も。とにかくいろいろ幅広く取りそろえられていること――ポリシーにかける品揃えということでもあるのだが――がこの店の特徴であり、また重宝がられているところでもある。ないのは書籍、医薬品、食品といったところか? たいていのものが揃うという便利さに、駅前というロケーションのよさも手伝って、盛況――とまではいわないが、店は結構繁盛している。
日曜日、本屋にいったついでに寄ってみた。別に、取り立てて欲しいものがあったわけではない。けれど、なにが目玉商品になっているのかという興味が先にたって、近くにくれば寄ってしまう。店内を一周りして、だいたいの品揃えが分かれば満足して帰ってしまうから、懐の痛まない、ささやかな娯楽といったところだ。
入り口を少し奥まったところに、今日の目玉商品を満載したワゴンがあった。手袋片手百円の文字が見える。今使っている手袋が少し傷んできてたなと思いワゴンに近づいて、ふと違和感に襲われた。片手? 一組でなくて? 確かに、商品POPには片手百円と書かれている。
ワゴンを覗けば、確かに片手ずつばらばらにされている。色も型もとりどりで、でもそんな中から自分好みの手袋を見つけることができた――左手だけ。左手だけあっても仕方がないので右手も探すのだが、それがどうもおかしい。右手が見つからないのだ。手袋がちぐはぐに売られているとは考えにくいので、すぐに右手も見つかると思ったものの、その左手に対応する右手は、ワゴンのどこにもないようだ。
どうしてもあきらめがつかないので、山とある手袋を一組一組揃えはじめた。すると、やはりおかしい。いやに右手の数が少ないのだ。左手が十あるとすれば、右手は七もないのではないか。普通に考えれば、手袋の需用は左右ともにほぼ同じなのが自然だ。だが、最近事情が変わったのだろうか。右手ばかりが売れるのか、あるいはちぐはぐに手袋をはめるのが流行りなのだろうか。
大量にあぶれた左手。僕は首をひねっている。