猫またぎのわたし

 職場では、迷走する政治や先行きの暗い社会についての話でもちきり。双方一歩もひかず白熱の議論、といいたいところですが、別に二人は真っ向から対立しているわけではないので激高することもなく、終始穏やかな中に話し合いは続きます。結局、話は尽きないままに持ち時間は尽きて、時間外延長戦にもつれ込むのでした。

 話は、現在の政治から景気、雇用、教育まで幅広く。場所は中庭、自販機前のベンチに移って、缶茶を飲みながらの論議。不況から日本は立ち直れるかという話が発展し、むしろ今の状況で人間的に豊かな暮らしを得ることのできる、新しい暮らしの方法論が成熟するのを待つべきではあるまいかという話を最後に、議論は急激に収束に向かったのでした。

 理由は議論への乱入者があったため。それは一匹の猫でした。

膝上の一匹の猫 猫は真っ直ぐわれわれのいる場所を目指し、軽々とベンチの上に飛び乗ります。そのまま猫はすたすたと近づいてくると、僕をまたいで、同僚の膝にちょこんと丸まるのでした。

 おいおい、僕は猫またぎですか? 哀れな僕の突っ込みにも我関せずという感じで、猫は同僚の膝の上。様々な僕の働きかけにも無視を決め込み、その後も奴は同僚の膝の上に居続けました。

 吹奏楽部でサクソフォンを吹いていたことがありました。春や夏は季節がよいので、パートでの練習を屋外ですることもたびたび。そんな、夏のコンクールに向けての練習が続くある日、一匹の猫がわれわれに近づいてきたのでした。

 なにに興味を持ったのか、猫はすたすたと近づいてくると、僕の前を素通りして、ひとつ下の後輩にすり寄るのでした。その子はすり寄ってくる猫に驚喜して、しゃがみ込むと猫の背をなでます。僕はそんな後輩を見て、ああ可愛いなあと、ずっとこの光景が続けばどれだけ仕合せだろうかと、内心静かに思っていた――

 あ、別に猫を抱く同僚を見て、可愛いなあと思っていたわけではないですよ、あしからず。


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公開日:2002.03.26
最終更新日:2002.03.26
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