壁際に追い詰められて機銃の掃射をうけたらしい。折り重なって死んだ人々に半ば埋もれるように、私は倒れていた。日が真上から照っていた。真昼だ。だが暑いのかどうかさえ分からない。身体を動かすと痛みはなかった。銃弾は私をそれたらしい。天井の破れた廃虚の石壁が、風化したようにぼろぼろで、ところどころ弾痕が走ったところなどは崩れんばかりになっていた。砂岩でできたような石壁だ。どう見てもここは日本ではなかった。
身を起こそうと、死体に手をかけ腕に力を込めた。思うように体が動かない。全身がだるかった。くらくらするのは頂上の太陽のせいか。話し声とともに、人が角を曲がってくるのが見えた。起き上がるのはあきらめ、死体のふりをして通りすぎるのを待とうと決めた。近付いてくるのは深い緑の揃いの服装をした二人組みで、肩に長い銃器を担いでいた。二人が二人ともにこちらを見ていることが分かる。息を詰めた。生きていると悟られれば、今度こそ命はない。死体の山に溶け込むようにして、ひたすらに行きすぎるのを待った。
二人組みの片方が、長い壁に沿ってつらなる死体の列に近付くと、肩からゆっくりと銃を降ろし銃床で死体を揺すぶりはじめた。手近な死体をひとつひとつ、確かに死体かどうか確かめながら。なに突刺されるわけではない、黙って揺すられるままにいれば死体と思って呉れるだろう。そこへ二人組みのもう片割れが二言三言、確認する同僚を制するように声を掛け後ろに下がらせると、やおら小銃を構え端から掃射し始めた。当たればひとたまりもない。泡を食って私は、積み重なった死体の山に飛び込み、奥へ奥へ潜り込もうと必死でもがいた。機銃弾を浴びた死体がはぜて踊る中、身のすぐそばをなにものかがかすめ、何度も何度もかすめ、息も荒く真っ暗の闇に向かって潜り込もうとしている私は、その恐怖の最中に目を覚ました。真夜中の自分の部屋、いつもの布団の中であった。