私がまだ運転免許を持っていなかったときの話である。教習所の卒業がかかっている最終の路上検定で大失敗をやらかした。
はじめに断っておくが、対向車線を走行したわけではない。一度やった失敗は二度繰り返さないを目標としている。だから私は前向きに、それまでやったことのない失敗をしたのであった。
さて、私は試験というものが苦手である。椅子に座って受ける筆記試験の類いも嫌いであるが、実地で行われるものも同様苦手としている。いや同様どころではない。突発的に起こる予測外の出来事に対応することの要求される後者の方がずっともっと嫌いである。だから私はなるたけ車には乗りたくなかった。免許を取るにはどうしても避けて通れないから、いやいや乗っていただけである。
卒業試験当日に路上検定のコースは発表される。コースは悪くなかった。よく覚えている道であり、自主経路も実に素直に引くことができた。要所要所の注意点もしっかり頭に入っており、目を閉じれば情景も目に浮かぶほどといえば言い過ぎか。しかし得意な道であったのは事実なのである。
前半はむしろなにごともなく過ぎたのであった。注意すべきは信号と横断歩道を待つ歩行者であるが、双方問題なく順調に走ることができた。一旦停止後、自主経路に入る。信号のない交差点から国道に出るのが難所であるが、慎重に慎重を期して無事過ごし、国道を外れて後は道なりに進めばよいだけという、そう思ったところに油断があったのだろう。
最後の交差点。信号が赤になり、私は右方向指示器を点灯させながら徐々に速度を落としていく。停止線直前で停止させるとシフトを一速に入れた。ここを右折し停車処置をすれば路上検定は終わる。右折した先はガードレールつきの歩道がある道である。歩道ぎりぎりに停車させる。少しいった先に消火栓があるので、それまでに停車させたかった。
信号が青に変わった。意識が停車位置から交差点に引き戻されてゆく。横断歩行者はいない、渡ろうとするものもいない。よし、問題なし。私はアクセルを踏み込み、クラッチを繋いだ。徐々に車は動きだし、そしてブレーキ補助が入った。
右折に限らず、安全確認は手前からして行くのが筋である。右折なら、対向車の有無、横断歩行者の有無という順に確認していく。だが私の心はすでに停車処置に入っていた。対向車を完全に見落としていた。
このようにして、私は検定に落ちたのである。