2004年1月11日、大阪で漫画のイベントが開催された。たくさんの漫画愛好者が、自分の作品の売り手として、あるいは買い手として参加する。そのイベントはComicCityといって、規模も大きくちょっとした歴史もある。
私にはちょっとおたくの友人があって、有名な魔法を学ぶ少年たちの物語のパロディ本を出品するという彼女が、こうしたイベントに慣れていない私に情報を提供してくれた。そう、彼女は常に我が最良の導き手なのである。かくして、私は七年ぶりに二度目のイベントに参加した。
大阪でのComicCityは、いつも大展示場インテックス大阪で行われている。あの日、私はインテックスに向かおうと大阪地下鉄に乗って、同じ場所に行こうとしている人たちを見たのだった。なぜ、その人たちの目的地を私は知っていたのだろうか? 幾人かの特別なおめかし、ゴシックロリータスタイルや漫画の登場人物と同じ外観などなどが、彼らの行き先を告げていたのだ。最寄り駅と会場間の道すがら写真を一枚撮ったのだが、そこにゴシックロリータの少女とシルクハットの青年が写っている。これらは、日常ではなかなか見かけないものだ。
開場に三十分遅れで到着して、私は長大な行列をみつけた。列は折り畳まれ、とぐろを巻いた蛇みたいになって広場に詰め込まれていた。行列はゆっくりゆっくり進み、同じ顔に何度も何度もすれ違った。折り返しごとに、係員の「列にそって進んでください!」という高い声が聞こえていた。
三十分後、入り口にたどり着いた。ここで、チケット代わりのカタログを購入する。お金はきっちり用意しておいたほうがいい。釣りがあると、入場が遅れてしまう。
すでにカタログは持った、しかしまだ私は自由ではない。また行列に加わって、中庭を一周。皆、同じ分厚いカタログを見ている。カタログには一万を越えるグループの紹介が載っている。それぞれに目当てのサークルがあって、出展場所と最も効率のいいルートを探しながら歩いていた。
大きな部屋に通され、部屋が人で一杯になるまでカタログを見ながら待っていた。ほら、証拠の写真だ。皆、一心不乱にカタログを見ている。彼らにとって、多くのグループが新作を用意していると予想される一年最初のイベントは、極めて重大なのである。買い手というものは、新作の入手を望むものなのだ。この目的を果たさんがために彼らは来たのであり、きっと事前に情報収集もしていたはずなのだ。
ところで、残念なお知らせがあります。禁止事項のページを見ていて、写真を撮ってはいけないと知った。そんなわけで私は写真を撮ることができず、つまり会場の雰囲気を伝えるのに、言葉でする以外にないのである。これは、私にとっては困難な試みであり、さらに皆さまにおいては、私のフランス語に我慢させることになるだろう。
会場に入ると、もう人がいっぱいだった。最初に入ったグループの人たちだ。一番最初に入った人は、きっと入り口前で早朝から待ってたはずだ。人気サークルの作品は、多分この人たちに買われてしまっているだろう。
インテックス大阪には六つの会場がある。私たちを迎えたのは1号館だった。2号館から6号館が、私たちにとっての展示場であり市場である。会場は14,000グループを収容して、それらグループは次にあげるような十一カテゴリーに分類されている:少年向け漫画,漫画全般,アニメ、ゲーム,小説,芸能と音楽,歴史と古典,オリジナルJune,オリジナル,男性向け,そして小物、である。
説明が必要だろう。
前述のカテゴリーのうち最初の七つは、ファン・フィクション(パロディ)のサークルを扱っている。彼らは彼らの想像を自分の本の上に表し、実に自由に物語る。アナザーストーリーを、後日談を、異なった結末を、描かれなかった日常を、登場人物同士の恋愛を、あなたたちが誤ってHentaiと呼んでいる性交渉などなどを。これらのカテゴリーこそが、このイベントの花形である。
彼ら独自の作品を作っているサークルが、残り三つのカテゴリー、オリジナルJune,オリジナル,小物に数えられる。「オリジナル」はオリジナル本のカテゴリーで、漫画、小説、旅行記、エッセイ、ペットもの、などを扱っている。ファン・フィクションではないという以外に理由持たないため、このカテゴリーの実体はごたまぜである。「小物」もオリジナル同様にごちゃごちゃだ。ここのサークルが扱うのは主に小物で、便箋やカード、バッジ、手芸品、アクセサリー、人形などといろいろだ。
特別な用語、June。この用語は、JUNEという雑誌に由来している。そのテーマは男性同士の美しい愛であり、しかし同性愛者向けではない。読者のほとんどは女性であり、作者も同様だ。そして彼女らは、大抵において異性愛者である。ボーイズラブとも呼ばれるこのジャンルは、彼女らの美しいファンタジーである。彼女らは憧れとともに美男同士の恋を眺めるのである。
今日は2004年5月10日。私は2004年1月11日に開かれたComicCityのレポートをまだ書き終えていない。申し訳ない、私の仕事はいつも遅いんだ。実をいうと、私は3月28日と5月9日にこのイベントに行ってきた。つまるところ、昨日もイベントに行っていたのだ。
読者プレゼント用にいくつか買い物をしてきましたよ。
欲しいものの名前を添えて、donne-le-moi@kototone.jpまでメールを送ってください。このサイトやレポートの感想なんかがあれば、きっと喜びます。
応募の締め切りは2004年6月20日、けれど延長の可能性もあります。
応募の締め切りが案の定延長されました。2004年8月21日が新しい締め切りです。
皆、大抵ひいきのサークルを持っているので、一番最初にそのスペースに向かうのが通例だ。私にしても目当ての作家があった。その人は漫画誌に連載を持っているのだが、そのスペースはカテゴリー「小物」に分類されている。私の目的地はその人の出店する6号館Cゾーンであった。これは私には好都合だった。小説のパロディ本を出品している友人に会いたかったのだが、小説のカテゴリーも同じ場所だったのだ。私は、だから、6号館にだけ向かえばよかった。
私は、なによりもまずひいきの作家のスペースを探した。たくさんの本や小物を冷やかしながら、机の列の間を歩いた。イベント初心者の私は、ファン・フィクションと小物カテゴリーの境界をうまく見分けることができず、自分の居場所を、カタログの地図で何度も確かめなければならなかった。Cゾーンをあちこちと歩き回って、私はやっと目的のスペースを見付けた。
目的の作家はスペースにただひとりで、机の上にはいくつかの小物が用意されていた。かばん、絵はがき、メモ用紙、そして本。私はその人と面識がなく、掲示板で話したことがあるというだけだった。その日、直接に会えることを楽しみにしていたのだ。だが簡単に話しかけることはできず、というのもスペースの前に女性が数人いたからなのだが、彼女らをかき分けて進むのは私には難しいことであって、私はここが空くまで待とうと決めた。
しかし、会場内でのかぎられた時間は無駄にはできない。私は友人のいるスペースを探すことにした。
その時自分のいたスペースは友人のスペースに近かったので、移動したからといって時間を無駄にすることはなかった。直に私はそのスペースにたどり着き、けれど私は不安になってしまった。そのスペースに、友人を見付けられなかったのだ。二人女性がいたのだが、私には初対面と思われた。元来物忘れのひどい私である、しかし人は普通友人の顔を忘れはしない。なのに、私は彼女の顔を忘れてしまったというのだろうか?
自己紹介しながら訊ねてみると、友人は買い出しに他の場所に行っているそうである。スペース内の彼女らがいうには、すぐに帰ってくるとのこと。私はここでもまた待つのであった。
この種のイベントにおいては、売り手と買い手の区別は曖昧である。売り手の多くは買い手でもあり、暇が出切れば買い出しに他のスペースを回っている。買い手にしてもそうで、買い手だった人がこの次のイベントでは売り手になっているかも知れない。買う楽しみ、売る楽しみ、作る楽しみ、人と出会う楽しみ、そして多分他にもいろいろ。ここには多様な楽しみがある。
再び件の作家のスペースにいくと、そこにはもう女性たちの姿はなく、スペース内に作家がひとりいるだけだった。だから話しかけることも可能だったのである。
しかし私には話しかけようがなかった。人見知りである。どのように挨拶しようか? 私はそんなことを考えながら商品を選んでいた。紙袋、本、メモ帳、絵はがき、そしてカレンダー。それらにはいろいろな猫のイラストが描かれている。支払いの時、私はCDの入った小さな袋を差し出し、そして一言「差し入れです」。それがその時私にできたすべてだった。
友人のスペースに戻ると、彼女はまだ戻っていなかった。困った状況になった、ここですることはもうないのだ。私の様子がスペース内の女性の哀れを誘ったようだ。電話をしたらどうですかといってくれたが、私は携帯電話を持っていない。すると幸運なことに、女性が自分のを貸してくれた。
久しぶりに聞く彼女の声は元気そうだった。声は遠くて聞き取りにくかったが、調子に明るさがあった。もうすぐ戻るというので、そのへんを一回りしながら待っていると応えた。
『小物』カテゴリーにはいろいろなものがある。便箋やカード、バッジ、手芸品、アクセサリー、人形などなど。けれどこれらは普通のものだ。だから、思いもしなかったものについて話すとしよう。
驚いたもの、それはとあるスペースで売られていた頭の飾りものだった。猫や兎の耳の飾りものだ。動物の耳を付けた売り子には男も女もいて、若い男がこうした飾りをつけているのをみるのははじめてだったのだが、彼らに恥じるところはまったくなかった。これは素晴らしいことだと思った。この態度にこそ、このイベントの本質があると感じた。
服が売られている一角を見付けた。けれど、人間用の服が扱われていたかどうかについては、今では確信が持てない。女性向けのものだと思った私はその一角に近づかないでいたために、それがオーダーメイドだったかレディメイドだったかということも含め、なにも分からないのだ。だが、おそらく彼らの商品は、この会場において最も大きなものであったろう。
一番小さな商品というのも分からない。多分誰も知らないだろう。小さな商品はたくさんある。指人形、バッジ、キーホルダー、指輪、イヤリング、などなど。着飾らない私にはアクセサリーは必要ない。けれど、私には鋳造ができる友達がいて、とても上手にアクセサリーを作るのだ。もし私が売り手としてイベントに参加するなら、友人と一緒にアクセサリー屋を開くだろう。
動物イラストのカップと絵端書を買った。なにも買わないつもりだったのだが、イラストにひかれたのだ。動物たちは可愛くシンプルで、子供時代を懐かしくさせた。私には一人姉があって、ファンシーショップと呼ばれる可愛い小物を売る店に連れられたものだった。最近は見なくなった。それに私はあの瞬間まで、そうした店のことを忘れてしまっていた。
ファンシーなカップと端書の代金を支払おうとしたその時、高額紙幣しか持っていないことに気付いた。釣りは充分にないということで、つまり私は手持ちの紙幣を崩さなければならない。「また戻ってきます」と店主に告げた。私はこの会場に軽食を売る出店がでていると知っていた。彼らは商売人だ、釣り銭は充分あるに違いない。人のよさそうな売り子にお釣りありますかと訊ねると、彼女はもちろんありますよと答えた。私は日本茶のボトルを買って、小銭を手にすることができた。
続く
(初出:Allons au Japon !,オリジナル:フランス語)