学生の頃、台風接近による警報で休講になった研究室での講読中、ぶんぶんうるさく飛び回る蚊をさっと片手で掴み殺したらば、皆から称賛された。蚊の動きをよく見てよく同調すればそう難しいことでもないのだが、普通の人はしないようである。たまたま研究室にいた人間がしなかっただけなのかも知れん。それをおいても、忍者かお前はというのは称賛だろう。それまで普通のことだと思っていただけに、ちょっと得意げでさえある。
私は殺虫剤が嫌いで、岸部一徳によれば人にやさしいというキンチョールだが、信じられたものか、虫を殺す薬品が人体に無害であるとはちっとも思えない。私はこれら殺虫剤は使いたくない。なのに家族は平気でまいてくれて、自分一人が使わなかったところでなんの意味もないのが悲しくてならん。
殺虫剤を使わないとなれば、虫にとっては好都合だろう。せいぜい使ったところで蚊取り線香。しかし火気は怖いし燻製になるのもどうも嫌だしで、自分からはつけようとしない。網戸だけが頼りという心細さ。虫ものうのうと飛び回ろうものさね。
けれど蚊の好きにもさせられんから、片っ端から始末する。蚊はとても小さいので、うまく掴んだとしても、こぶしの中のすき間に逃れている場合も多い。握った手を、もう一方のあいた手で揉むようにして駄目押して、それでも逃げられればまた掴む。風呂に入っていたならそのまま湯に浸ける。流水にさらす。とにかくありとあらゆる手でとどめを刺そうとむきになる。
とまっている蚊はどうするか。人の動きはどうにも鈍いようで、普通に叩こうとしても気配を察してさっと逃げられてしまう。なのででこぴんの要領でやっつける。ゆっくり近づくものには無頓着なのか、意外と逃げないものなのだ。この方法、成功率は高い。今日などは百発百中だった。
とはいってもなあ、寝てるあいだは無力で、やつらのしたいがままになっている。そこがどうもくやしいねえ。
蚊取り線香やキンチョールといった殺虫剤の主成分はピレスロイド。主に昆虫に働く神経毒で、人間などの温血動物には比較的無害とされる。