黒煎り玄米の思い出

 生米は消化に悪く、しかし炊くと持ち運びにかさばる。ゆえに古来携帯用には乾飯が重宝がられてきた。乾飯というのは炊いた米を干して作ったもので、炊飯器のすみやしゃもじにくっついたご飯粒みたいのを思い起こせばいいのだろう。実をいうと、私もこれを食べたことはない。今の時代に、いくら携帯に便利だからといって、乾飯を使う人はいないだろう。

 さて乾飯とは別に黒煎り玄米というのがあって、自然食に取り組んでいる人なら知ってるかもしれない。玄米を、弱火でじっくり黒くなるまで煎ったもので、煮出して飲み物にすることが多い。絶食療法などで使われ、弱った体にも効果がある。ミネラルを補給し、体の調子を整えるだとかなんとかだそうだ。

 家には一時、浅煎りの玄米がびんに入れて常備されていた。もちろん常食じゃない。なんかの意図があったのだと思うが、私は構わず、おやつ代わりに食べていた。元が米だからかなり歯ごたえがある。気合いの入ったおかきという風情で、悪くない食感だった。米なので味も悪くないしね。

 高校の頃だ。母が入院することになって、朝昼を自分で面倒見ないといけなくなった。最初こそ比較的真面目に食事の用意をしたものの、いちいちおかずを作ったりご飯炊いたりは面倒くさい。だんだん横着になって、ついには黒煎り玄米が常食になった。軽く一握りで茶碗一杯分くらいの栄養になる。びんからすくってぼりぼり食べてお茶でも飲めば、それで充分食事の用が足りた。面倒がないと、平時に兵糧みたいなものを食べてたわけだ。

 私は知らなかったのだが、玄米には脂質を落とす効能があるらしくて、見事に効いたよ。揃えて閉じた指の間から遠くの山が見えるまでになった。そのあまりの痩せ方に母は驚いたのだろう。問い詰められて食事の秘密を白状すると、ちゃんと面倒を見るようにいったのにと父がしかられる羽目になった。なんだか理不尽な感じもするが、私にはよい思い出だ。


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公開日:2004.08.15
最終更新日:2004.08.15
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