ネズミを捕える

 家に帰ると、二階がどうも騒がしい。階段を上がると、楽器のケースがすっかり解体されてしまっていた。鍵がかかっていたため、留め具を壊し蝶番を外して、その傍らには銀のユーフォニウム。いったいなにごとかと聞けば、ネズミが出たという。ネズミが楽器ケースのかげに消えてしまったため、追い出すためにケースを破壊したらしい。そこまでする必要があったのかという疑問が浮かんだが、壊れたものはしかたがない。今しなければならないことは、逃げたネズミを捕まえることだ。

 猫いらずを用意しようかと考えたが、私は家の中に毒物が点々とすることを好まない。罠をはることにした。罠といってもたいそうなものではなく、粘着シートを床に貼り付け、寄ってきたネズミを捕えようという、つまりはゴキブリほいほいの要領だ。

 家具もなく、がらんとした洋間。二人がかり、床にはいつくばって、透明の粘着シートを貼り付けていった。端書より一回り大きなサイズのシートが、適当な間隔を持って貼り付けられ、ここにうまくネズミを追い込めればいい。部屋の真ん中にえさを置いてみた。部屋から出て、扉のかげから首尾をうかがった。

 部屋の隅からちょろちょろと出てきたネズミはおよそ三四匹といったところだろうか。手のひらに軽く載るほどの小さなやつで、真っ白な、綿毛のような毛を生やかしている。長い毛が粘着シートに引っかかるのを気にするように、最初はそれこそおどおどと警戒しているそぶりだったが、そのうちに気ままさを発揮して、えさのまわりで落ち着きなく動き回ったものだから、まんまと罠にはまってしまった。

 身動きが捕れなくなった様子を確認して、近づいてみれば、子ネズミなのだろうか。本当に小さな、愛玩用に飼われてもおかしくないようなそんな風であった。人間がそばにいることにパニックを起こし、暴れまわったせいで盛大に毛が絡んだ。しかし、気がつけばネズミは姿を消して、粘着シートには引きはがされた毛がわずかに残るばかりだった。

 粘着面についた毛羽のせいで粘着力が落ちるのを嫌って、シートの表面をはがしていった。粘着力が回復して、またネズミがかかるのを待とうと思ったところへ、今度は猫が入ってきた。いつの間にか開け放された窓から入ってきたらしい。明らかに飼い猫と見える長毛種が、これもまた二三匹、えさのまわりをぐるぐるまわりながら寝転がったり伸びをしたりして、そうしてまた粘着シートは毛だらけになった。猫は追い立てられても我関せず、我が物顔で居座り続けている。


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公開日:2005.10.11
最終更新日:2005.10.11
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