朝の古典派

 すぐそこで鳴っているピアノに耳をそばだてて、モーツァルトだろうかあるいはベートーヴェンか。ピアノソナタの第一楽章、ソナタ形式、古典派らしく構成はかっちりとして、きっとベートーヴェンだ。私にとってピアノソナタの雛形はベートーヴェンである。ヘンレ版のソナタ集で習い覚えた響きがはっきりと耳についた。

 快速調アレグロ、ところどころに踏むストレスが音楽を前進させる。展開部から再現部へ、そしてコーダ。耳だけになって私は、ピアノの音だけを聴いていた。主題を追い、曲の構造に分け入ろうとしていた。何番だろうか。よく知らない曲だ。きっと初期のソナタだろう。

 第一楽章が終わり、目を覚まして私は時計を見た。朝六時三十分、後二十分の余裕があった。それだけあれば第二楽章は余裕だろう。あるいは最終楽章まで聴ける。私は時間がもったいないとすぐさま目をつむり、ついと眠りに落ちたが、第二楽章が聴かれることはついぞなかった。


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公開日:2005.08.26
最終更新日:2005.08.26
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