私がまだギターを弾いてなかったころのこと、地べたに座り込んでギターを弾いているギター少年に、ホームレスっぽい風体のおじさんが近づいていって、どう交渉したものかギターを借りると、もうそれは見事に弾きはじめたのだった。はやりのオベーション、モダンなルックスのギターで次々と演歌を弾いていくおじさんは傍目にもかっこうよかった。少年のおじさん見る目も明らかに変わって、ヒーロー見るようだった。
おじさんは昔バンドマンだったのかも知れない。かつてバンドマンは花形だった。バーやスナック、クラブには生バンドが控えていて、しかしこうした風景は有線放送やカラオケに押し出されるように消えていった。全盛期には羽振りのよかったバンドマンも、今はたいへんらしい。職にあぶれて困窮する人もいると聞く。もしかしたらあのおじさんもそうした一人だったのかも知れない。
バンドマンといえばそれはもうプロなのだが、フォークムーブメント吹き荒れた時代に青春を過ごしたような世代もなかなか侮ることができない。今、年齢にして五十歳前後といったとこだろうか。あの世代は、ギターを手に輪になって、いかなるところででもフォークを歌った。なかには当然うまいやつもいて、今でこそアマチュア然として普通のおじさんぶってはいるが、若い頃にはならしたもんさ。プロないしはセミプロみたいのがいる。だからおそろしいんだ、フォークムーブメントを過ごした奴らの前でギター弾くのは。おじさんは実はもっと弾けるんだぜ、みたいなことを思ってるんじゃないか? こうなりゃ疑心暗鬼であるが、実際久しぶりに手にしたギターで、ちょいちょいとスリーフィンガーをやってのけるのだから、若い時分はそりゃ弾いたろう。
侮れない世代とはいうが、ギター持っていると一番反応がいいのもこの世代で、一番話が弾むのもこの世代。弾いて弾かれて、これも一興なんだが、それでもちょっと気後れするのさ。