NHK杯国際フィギュアスケートを見ての雑感

 今年のNHK杯は例年になく胸に兆すものがあり、若手の躍進も大いに貢献したのだが、それ以上に、今シーズンでの引退を決めたという本田武史選手の存在が大きかった。

 ショートプログラム五位。今日のフリーではどれだけ順位を上げられるか、期待してテレビを見ていた私にとって、彼の姿はあまりに意外なものだった。いつもならあり得ないようなミスに、最初は他の選手も調子を崩したという氷のコンディションのせいかと思ったが、直にそうではないと気付いた。アナウンサーのいう右足首骨折、完全には回復していないのだろう。度重なるジャンプのミスにもひるまず本田選手は演技を続け、ついには転倒。私は、一度に胸を締めつけられるような思いがして、彼の胸中はいかがばかりか、涙がにじんだ。もうこれが最後、本田選手の一挙手一投足逃してたまるものかと注視して、そのあり得ない演技の荒れ方に感じたものは痛ましさよりも崇高さだ。そして最後のスピン――、涙が止まらなかった。

 痛み止めを飲んでの出場だったと聞いて、限界に限界を重ねるアスリートの世界の厳しさを改めて思った。一時期ぽっかりと穴の開いたような日本フィギュアスケートの低迷期に、気を吐いていた少年の姿ばかりが記憶されている。その彼ももう二十四歳、もう引退というのだから、時の経つのは早く花の盛りはあまりに短い。

 今、日本のフィギュアの舞台には有望な新人が女子男子ともに次々とあらわれて、今回の熾烈な上位争いを演出した高橋大輔選手、織田信成選手にしてもそうだ。ショートプログラム終了時の順位をひっくり返したフリープログラムは見ごたえも充分で、あまりのドラマティックな展開に、ここでも私は泣いてしまったほどだ。

 栄枯盛衰、ベテランを若手が追い越していく。世の常であるとはいえ、今日ほどこの事実を重く受け止めたことはなかった。本田選手にはこの十年を楽しませてくれたことへの感謝を捧げたく思う。


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公開日:2005.12.04
最終更新日:2005.12.04
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