赤いボーダーシャツの男

 休日の午後、家族が出払った家にひとりでいると、なんだか他にももうひとりくらいいるような感じがして、そうしたら泥棒が入っていたのだった。若いはつらつとした男。泥棒といってもむしろ堂々として、まるで家族の一員であるかのようだ。二階からのしのしと降りてきて、赤いボーダーのポロシャツ。日当たりのいい居間で話をした。

 家に入るのははじめてではないというのだ。侵入経路から間取りからすべてが完全に把握されているらしく、これまでも何度も出入りして、その形跡を残さなかった。しかしかといってなにかが盗られたようにも思えない。これからなのだろうか。あるいは知らないうちに盗られているのだろうか。男はにこにこと笑っている。だが私はこの男の危険であるということに気付いている。うかつなそぶりを見せれば殺されるのではないかと思っていた。

 男はそろそろ帰るという。知らないうちに家の庭に停められていた赤いスポーツカーに乗り込み、発車間際こちらを向いたところを私は写真に撮った。しかしそれがまずかった。やはり顔がうつったのはまずかったか。男は私に詰め寄ると、カメラを寄越せという。いやだ。絶対渡さない。撮った写真を消すからカメラだけは許してくれ。

 しかし、撮った写真はすべてflickrに公開すると決めている。なんとかして写真は残したかった。だからデータ消去に手間取るように見せかけて、SDカードを抜こうとした。その時、電池を落としてしまい、冷や冷やしながら拾い上げ、カメラに電源を入れると内蔵メモリは空だからディスプレイにはデータがありませんとの表示。男は納得したらしく私を離してくれた。

 車を表に移動させ、私は見送るために家を出た。男が振り返ってまたなだとかなんとかいって発車させようとしたときに、家族と姉夫婦が戻ってきて、知り合いが来てたのかなんてのんきなことを聞いてくる。泥棒などとはいえない。説明しようにも男はまだそこにいるのだ。曖昧な返事をして、そして男は去っていって、私はさっき撮った写真を本当に公開するか迷っていた。公開したのがばれればおそらく私の命はないだろう。しかし警察がその写真を見て、助けてくれるかも知れない。だが私の命がなくなる可能性の方がずっと高いだろう。しかしポリシーは曲げたくない。しかし命は惜しいと、堂々巡りに考えながら立ち尽くしているうちにすっかりあたりは暮れていた。


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公開日:2006.09.08
最終更新日:2006.09.08
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