昼休み、ギターを弾こうとケースを開けたら、弦が切れていた。あーあ、今日は練習にならないな、いつもならせいぜいこのくらいのところが、今日に限っては変に嫌な感じがした。いや、関係ない。こんなのはたまたまで、そもそもこれがいつ切れていたかなんてわからない。昨日だったか、あるいは日曜、土曜。人間は自ら予兆を探して、やっぱりあれが虫の知らせだったと後から決めつけるところがある。だが、こんなものはなにも現実を反映しない。
それにしても今日は運の悪い一日だった。設置してすぐに動作するはずの機器が、今日に限っては不調で、その対処で午前一杯を潰してしまった。やれやれ、なにもできなかったと思って午後、同機種で再びトラブル、皆目原因がわからない。設定を確認、環境の見直しをするも問題がわからず、結局また午後も潰してしまうはめとなった。
トラブルが解消されたのなら達成感もある。しかしすごすごと引き下がってくれば疲労は一層濃厚に感じられて、そんなおり受けた電話が最悪だった。名乗らない相手。先達て導入された新システムに関する問い合わせ。旧システムからのデータ移行に際し、まったく関係しない端末から移行しようとしてもうまくいくはずがない。なにしろデータがないのだから。説明しても聞いてくれない。自分のいいたいことをまくし立てるだけ。とにかく徒労感ばかりが強く、いやこれもいつもなら適当にいなせたことだ。ただ、今日は心に余裕がなかった。ざわついて嫌な感じだった。きっとそのせいだ。
ギターの弦を買って、帰ったら張り替えよう。最寄り駅からの帰り道、とぼとぼと坂道をたどる。足が痛い。弦の切れたギター、ケースが重かった。
家に帰り着いて、手洗いうがいをしていたら、外から雨音が聞こえてきた。扉を開ける、驟雨。ついさっきまでなんともなかったのに。このときやっと自分はついていると思った。大丈夫、問題ないと思えるようになった。