コンプレックス

 オークションでどうしようか迷っていたペンが華麗に落札されていた。今日のこと。二万円。あー、踏み切るのが遅かったなあ、縁がなかったと思って納得することにした。実は同じペンが二万四千円で出ていることに気付いていて、しかしさすがにもう踏み込もうとは思わない。しかし、なぜ自分は現行品ではなくオールドのペンにこうも拘っているだろうのか?

 以前なくしたペン。もしかしたら盗られたのではないかといっていたペン。伯父から大学の祝いにと贈られたペン。それがずっと気にかかっている。もちろん今から取り返せるとは思わない。探しても見つからず、また盗られたのだとしても、証拠なんてないのだ。なくしてから十年以上がたつ。時折思い出していやな気分になる。自分の管理がなっていなかったことで、大事にしていたものを失うことになった。返す返すも悔しいことには違いないが、しかしそれでももう済んだことなのだ。いつまでも拘泥し続けたいとは思わない。

 そうした思いがあるために、同じペンを探すのだろう。しかしそれだけだろうか。私はそうではないと思っている。もうひとつの理由。それは、私が自信を持つことができずにいる、それだと思っている。

 ペンは実用品であり、工業製品である。そして、技術は進歩するものだという考えからすれば、古いものより今のものの方がいいという結論も充分にあり得るだろう。もちろん当時ならではというものもある。職人の問題、素材の問題、そしてコスト削減に伴う劣化など、新しいものが常によいわけではない。しかし、確かにそうなのだとしても、メンテナンスの面倒など考えれば現行製品を選ぶのが一番だ。

 そうと思いながら古いものを手にしたいと願うのは、薄っぺらな自分に、ペンの持つ歴史をプラスしたいという、まさにコンプレックスがためなのだろう。そうと気付いたら、拘るのもばかばかしくなった。一息ついて、ちょっと落ち着いたように思う。


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公開日:2008.04.02
最終更新日:2008.04.02
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