図書館サービス論

図書館サービス(貸出、障害者サービス、児童サービス、全域サービス、図書館協力、集会・行事など)の意義と課題を詳述せよ。又背景の理念である“自由”の問題についても要約せよ。


 このレポートは長岡京市立図書館へ取材に基づくものである。長岡京市立図書館は長岡京市のほぼ中央に位置している。長岡京市人口77,705人のうち登録者は35,990人(46.32%)、市外登録者も含めた総登録者数は37,600人である。当図書館は私鉄駅やスーパーマーケット等に近く利用に関しての不便は比較的少ないと思われる。地区毎の登録者状況を見る限り図書館周辺地区と市外縁地区との差はそれほど見られず、ほぼ市内全域に渡り40%から半数程度の登録利用者がいる。ただし図書館から駅をはさんで反対側に位置する地域では登録者数が30%台前後で低迷する地区もあり、特に私鉄とJRの二線を越えなければならない地区の登録者数は著しく低く20%台に留まる地区もあった。しかしだからといって一概にこの地域の登録者割合が低い訳ではなく、さらに川を越えた東和苑では39.76%、城の里で40.86%、神足に至っては51.41%と市全域での平均値を大幅に上回っている。これらの三地区は市の東側外縁部に位置しており、これらの地区の存在が、簡単に典型的な利用圏域に当てはめて捉えるということを困難にさせる。最も登録者の割合が高かった地区は八条が丘の82.74%。八条が丘は図書館から消防署をはさんだすぐ北側に位置しており、この付近の地区はほとんどが市の平均値以上の登録者割合を数えている。逆に登録者割合が最も低かった地区はあかね台の13.83%である。

 長岡京市立図書館の蔵書構成は一般書93,741冊、児童書50,127冊、点字図書721冊、計144,589冊である。その他資料はリスニング資料が738点。新聞14紙(うち児童向け3紙)、雑誌144誌(うち児童向け9誌)の計11,422冊。電話帳700冊。視覚障害者用のカセットブックが73タイトル、800巻である。蔵書を文類別に見ると最も多いのが文学の35,665冊で、社会科学、歴史が続く。児童書では文学17,506冊、絵本16,864冊、次いで自然科学が多い。半年間の利用上位を占めるものは一般書、児童書共に日本の小説であり、一般書では随筆、外国の文学が続き、児童書では絵本、外国の文学、そして紙芝居が続いている。

 市民一人当りの貸出冊数は5.3冊でありテキストに編まれていた茨木市の試算と比較しても著しく成績が悪い訳ではない。市民一人当りの蔵書冊数は1.9冊でありこれも茨木市試算をクリアしている。しかし年間購入冊数では、茨木市試算の0.24冊に対し0.11冊と大きく下回り、この点は課題である。

 年度別の貸出冊数と貸出者数の推移を追ってみると、一般書貸出冊数は年々成長を続けており、平成十年度貸出冊数は平成元年度の145,779冊のほぼ二倍に達している。特に著しい伸びがあったのは平成九年度の238,664冊から平成十年度の276,463冊で、増加の要因として平成十年度に一人当り三冊だった貸出冊数を一人当り五冊と改めたことを上げることができる。児童書に関しては貸出冊数の面で伸び悩んでおり平成十年度は過去十年間で最多の貸出のあった平成六年度の138,822をわずかに下回っている。ただ平成八九年度から十年度にかけては貸出冊数が上昇している。この児童書貸出数の低迷は児童貸出者数の減少の影響のためと考えられる。平成元年度から七年度にかけてほぼ横這いだった児童貸出者数は平成八年度から急激に減少し、平成十年度では平成七年度の44,969人に対して約一万人下回る35,502人でしかない。この利用者数の減少が児童書貸出の伸び悩みを産んでいる主要因であろう。なお過去十年間での最低児童貸出冊数平成八年度の117,082冊であり、貸出冊数改正に因る貸出冊数増加は児童書においても顕著である。

 図書館主催による行事は絵本の読み聞かせ、ストーリーテリング、児童文学の研究会がそれぞれ毎月一度、その他不定期の講演、講座等が年間六回ほど開かれている。これら行事は主に子どもを中心としたもので、このことは児童貸出数で伸び悩む当図書館の親子とも視野にいれてのアピール戦略と思われる。

 視覚障害者に対してのサービスは点字図書、カセットブック所蔵、貸出だけではなく、対面朗読サービスが毎月二度行われている。

 長岡京市図書館では貸出冊数の低迷を理由に平成十年度にブックモービルを廃止し、それに対し貸出冊数上限の増加で対応した。この変更による結果は実際に貸出冊数の伸びという形で現れていることからも、非常に効果的な対応であったことが分かる。しかしその反面、取材の折りの「お父さんが暇で車が出せる日にしかこれない」という子連れのお母さんの意見などは、貸出閲覧に際しサービスの一端を利用者に担わせざるを得ないという状況が見てとれる。また長岡京市は今年度から市内各中学に常勤ではないものの司書教員を配置している。このことからは分館を持たないことのデメリットに対する補償と伸び悩む児童貸出の促進を目指していることが感じられ、また団体貸出に積極的であることも分館がないことへの補償と考えられる。また市内にある乙訓高等学校図書館では当校OBおよび保護者への貸出を行っており、これらの図書館行政の中心には分館の替わりとなる設備を最大限に利用し、図書館サービス圏域を拡大、貸出冊数の増加を目指そうという方向性が見てとれる。図書貸出に対し視聴覚資料は貸出がされておらず、館内視聴設備三機による利用に留まっている。このことは視聴覚関連資料の所蔵に積極的でなく、また視聴覚機の利用も年間787回に留まっていることから当面の課題となるだろう。視覚障害者に対するサービスもボランティアグループに頼っているのが現状であり、ここにも図書館の職員不足によるサービスの滞りが見られる。他の問題としては開架スペースが決して広くないため図書の全開架が不可能であり積極的に本を探そうとしない限り閉架図書にアクセスできず、本との出会いに制限が出来てしまっている。特に児童室で絵本をフェイスアウトにすることがほとんど出来ない現状はアピール面で非常に劣っていると言わざるを得ない。

 また“自由”という理念を考えるにあたり、館内の検索機を用い書名『ちびくろサンボ』での検索を行ったところ、見事なまでに消え去ってしまっていた。館内には『サンボ』問題を取り扱った一般書も複数種類所蔵されているが、その原典を参照することは不可能になってしまっている。また改訂版の『ちびくろサンポ』は所蔵開架されているところから見ても『サンボ』が消えたのは件の問題が為であることは明白である。

 仮に『サンボ』が差別を助長する悪書であると断定されたのだとしても、なぜそれまで所蔵していたであろう『サンボ』絵本群を閉架というかたちであるにせよ所蔵しなかったのであろうか。この様な対応は、『サンボ』の差別性を見い出さない利用者、『サンボ』がはらむ差別意識を問題とし積極的に問題提起の書、教材として利用する道、差別問題に関する研究目的の資料性、それら全ての可能性を失わせるに充分である。

 ここには当図書館が掲げる「考える市民」を育てるという理念と相反する基本的な問題がある。それは、利用者一人一人が、独自の考えを持ち、各個人のために利用できる資料、を図書館が一方的に破棄したという思想の多様性を侵害する行為に他ならない。

 以上のように、長岡京市立図書館はその持てる資産を有効活用するに至っていない。また自己の判断能力が問われる時代に、市民の自己啓発を支援する場である図書館がまずその中立を失っていく可能性におぞましさを感じる。


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公開日:2000.08.23
最終更新日:2001.09.02
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