図書館資料論(再提出)

「蔵書構築に関わる諸問題について概説しなさい。」


 図書館における蔵書とは何かと考える場合、まず第一に留意しなければならないことは、その蔵書がただ保管、維持される目的で集められるのではなく、実際に利用者の手に届き、有効に利用されるものであるということである。つまり、図書館における蔵書は、なにより利用者、読者の要求に答えうるものでなくてはならないし、また多様な利用者の要求に答えるために、図書館に従事する人間は常に利用者の動向を知り、その求められている書籍、資料を知るように勤めなければならない。

 以上の目標を達成するために図書館は蔵書を更新、充実させていくのであるが、それは無計画に行なわれるものではなく、ある一定の基準、方針に従い遂行されることとなる。この、その図書館における、蔵書を形成する際の基準、方針を「蔵書構成方針」と呼ぶ。

 この「蔵書構成方針」は「抑制型」と「拡張型」という、おおよそ二種に大別される。前者の「抑制型」は、その図書館において収集しない書籍、資料を決める或いはある決められた性格を有する書籍、資料のみを収集する、などのその図書館独自で決めた一定の枠組みのなかで限定的に資料を収集していく方式である。それに反し後者の「拡張型」は、利用者からの要望を求め、それをもって収集に当たるという形式である。すなわち、利用者が予約または希望する、自身の読みたい本でその図書館が所蔵していないような資料を積極的に収集していくような方式である。

 以上のように蔵書構成方針にもいくつかの方式があるが、どのような方式を採用しているにせよ実際に資料を収集する段に当たっては、選択という作業が必ず付いて回る。選択にあたる担当者を「選択者」と呼び、選択者はどの様な資料を収集するかを定める「選択基準」に従い収集する資料を決定していくこととなる。かつては少数の長年の経験を有する職員が選択者となることが多かったが、現在ではできるだけ多くの、多様な職員が関わることが多くなってきている。特に、選択者に必要な資質とは、本及び利用者のことを熟知し、図書館の為さねばならぬことを自覚していること、である。

 なお、この選択における方法論においても二種の方式に大別することができる。ひとつは「価値論」と呼ばれる資料のもつ価値を基準としその価値の序列に従い選択するというもの、そしていま一つは「要求論」と呼ばれる利用者の要求を第一の基準とするものである。現在の動向としては、価値論から要求論への移行が見られる、すなわちより利用者の要求を反映しようという方向に動いているわけである。

 しかし、蔵書を形成するにあたっては以上のことだけではなく、より蔵書全体を把握し構成していくという作業が必要である。ここが、冒頭で述べた資料の収集は計画的でなくてはならないという所以である。その際には蔵書を評価することになるのだが、この評価法において「利用を中心にした評価法」と「蔵書を中心にした評価法」に分けることができる。前者は蔵書がどの部分が、どの程度、どの様な利用者によって、利用されているかを判断、評価するものであり、後者は蔵書の全体或いは一部における大きさ、幅、深さを評価するものである。

 「利用を中心にした評価法」には貸出調査法、館内利用調査法、利用者意見調査法、書架上での入手可能性調査、シミュレーション利用調査がある。貸出調査法、館内利用調査法は実際に利用者がどの様な資料をどの様に或いはどの程度利用しているかを分析する方法である。利用者意見調査法は利用者に聞き取り調査という形で協力してもらい、利用者が蔵書にもった問題点などを調査する。書架上での入手可能性調査は利用者が求めている資料が実際に入手できたかどうかを聞き取り調査などの手段により調べるもので、利用者の要求と蔵書のもつ問題点が同時にわかるという利点がある。そしてシミュレーション利用調査は職員が利用者の要求を反映しているだろう一覧表を元に、先の書架上での入手可能性調査を行なうものである。

 「蔵書を中心にした評価法」にはチェックリスト法、直接観察法、比較統計分析法、蔵書基準適用法がある。チェックリスト法は蔵書を評価するのにふさわしいチェックリストを用意し、そのリストにのぼっている資料が所蔵されているかどうかを調べるものである。直接観察法は特定の分野に明るい人間が書架を直接観察し評価する方法である。比較統計分析法は自館の蔵書統計と他館の蔵書統計を比較分析するもの、蔵書基準適用法はその比較の対象を文部省や日本図書館協会が公表している基準等に照らし合わせるものである。

 さて、以上のような方法で蔵書を評価、収集する資料を選択したわけであるが、これらの作業は必然的に蔵書の更新を要求することとなる。蔵書の更新は、常に書架上に新鮮な資料が並び、利用者が信頼を寄せる蔵書を造るための作業であり、より積極的な利用を促しうるものである。蔵書の回転数或いは耐久年数を見積り、それらに従って蔵書を更新させていくこととなる。『市民の図書館』においては回転数は四回転と見積もられており、また『公共図書館の地域計画』においては耐久年数は四年から六年と見積もられている。従って、蔵書の更新は毎年四分の一から六分の一は行なわれなければならないこととなる。更新の際には除架作業が伴う。除架された資料は書庫があるならば保管、なければ廃棄されることとなる。紛失資料、汚損、破損の酷い資料、内容が改訂された旧版、利用の少ない複本、回収不能資料が除架の対象となるが、それだけではなく、より利用される資料を精査、維持するために、著しく利用の少ない資料、具体的にはある一定の長期にわたり利用されない資料が除架、更新されていくこととなる。

 ここで話しを少し戻そう。図書館の蔵書は利用者の要求を満足させるものでなくてはならないと話を冒頭でした。では、実際に利用者の要求が満たされなかった場合にはどの様にすればいいのであろうか。この様な場合に、図書館間協力がなされることとなる。これは図書館を独立的に捉えるのではなく、複数の図書館の間に協力網を整備し、それらの図書館が各々もっている蔵書を共有しようという考えである。もちろんこれは、自館が基本的な蔵書を揃えていることを前提として、それでも利用者が求める資料を提供しえない場合に、他館のもつ図書館資源を相互に利用するということである。また、図書館の収集能力に関する問題から、資料を分担して収集、保存しようという動きも盛んである。これは主に新聞、雑誌などの逐次刊行物の収集において顕著であり、複数の図書館間で各々の館が収集する資料を割り当て、組織的に資料を収集、蔵書を構築していこうというものである。この制度にはいくかの方式があり、県立図書館などの大規模な図書館を核にし、その中央図書館が小規模な図書館を支援するというかたち、そして複数の図書館が協力しあい、保存図書館を共有するというものである。実際には、県立などの中心となる大規模図書館が小規模館を支援しながら、小規模図書館間でも協力網を整備するというかたちが理想的であるだろう。

 これらの活動は、いうなればすべての利用者が求める資料を、すべて利用者の元に届けるためのものであり、すなわち資料を生かすためのものに他ならない。


ある日の書架から トップページに戻る

公開日:2000.08.23
最終更新日:2001.09.02
webmaster@kototone.jp
Creative Commons License
こととねは、クリエイティブ・コモンズ・ライセンス(表示 - 継承 2.1 日本)の下でライセンスされています。