情報機器論

「生涯学習における情報機器の意義と公共図書館の在り方について論ぜよ。」


 現在、家庭へのパソコンの普及は目覚ましく、それにともないパソコンを介し接続される、インターネットを代表とする、ネットワークの進歩もまた目を見張るものがある。かつては個人では困難だったことがネットワーク時代を向かえた昨今においては容易の度合を増し、ニューメディアをして個人の領域、可能性を増大なさしめる感がある。ではこのように個人を拡張しうるメディアが、われわれが根源的に持つ学習への欲求、それを生涯学習と呼ぶこともよかろう、に如何に働きかけうるか、そしてこれらメディアに対し図書館は如何な可能性を有するかについて考えたい。

 アメリカにおいては、ネットワークを介しての大学教育が既に実用のものとなっており、ネットワーク技術が可能とした新たなコミュニケーションの在り方が活用されている。電子メールの簡便さ、ネットワーク会議システムを応用しての講義、そしてデータアーカイブの利用などがそれである。それら自体は以前からある形態をネットワーク上に置き換えたものに過ぎない。しかし旧来のメディアでは多くの時間、費用を費やし、また講義などでは時間や場所が拘束されるなどの不便があったが、新しいメディアではそれらの不便が軽減され、より合理的に物事を成し遂げ自由な場所、時間を利用者に選ばせることが出来るようになった。このことは生涯学習に大きな変化をもたらすきっかけとなる。というのも、社会人等自分の時間を自由にとることが困難な学習者にも、学習の機会を広く与えることが可能となるからである。

 学習の場を大学に限る必要はない。広く見ればインターネットという開かれたネットワーク空間そのものが学習の場として機能する可能性をもっている。インターネット上では有志による情報提供が行われ、それらは有機的に絡み合い自然データベースとしての機能を有するに到っている。ひとつのテーマを設定し検索することによって、そのテーマに関する情報を集めることも可能なのである。しかし、そうして得られる情報がすべて有用であるという保証がないのが、現在のインターネットの弱点といえるだろう。だとしたら、この弱点を補強し、より広範で専門性をもった知識の提供を図書館は為しうるのかもしれない。

 例えばカナダの国立図書館は自国の世界的ピアニストであるグレン・グールドのコレクションをインターネット上で公開している。ここではネットにアクセスできるすべての人間が等しくグールドの書いた論文、彼に関する論文、そしてバイオグラフィや書誌を閲覧し、彼の演奏を聴くことも出来る。これは確かによく出来た例ではあるが、一般の公共図書館でも独自の地域資料などのコレクションを持つことは少なくなく、ならばこそこれらのコレクションを自館からはなれた場所からも自由に閲覧しうる環境を提供することは可能であろう。そして情報の、より多くの情報と繋がることによってより効果を発揮しうる性格を意識し、如何に提供した情報を有意義に他の情報と相互に繋ぎあうことが出来るかを留意することは、ネットワークにおける情報の価値を高め、各館の有する情報を活かすことに繋がる。

 しかしこれら情報がネットワーク上にある限り、ネットワークにアクセスする環境を持たない人には意味を為さない。だとすればその環境を図書館が積極的に作り、提供していく必要があるだろう。

 図書館はネットワークに対し、その内からは情報を提供しネットワーク資産を高める形で、また外からはネットワーク環境を広く提供する形で、新たな学習契機に対し奉仕することを可能にするのである。


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公開日:2000.08.23
最終更新日:2001.09.02
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