Webサイトno-titles — 理想のWeb研究所を開設するにあたり、その主旨と背景をここに記す。
XHTML 1.0が勧告されたのは2000年1月26日、XHTML 1.1の勧告は2001年5月31日であった。XHTMLが登場してから、すでに五年の歳月が経っていることがわかる。CSSに関してはさらにさかのぼることができ、バージョン2.0の勧告は1998年5月12日とのこと。XHTMLよりも古い技術で実に意外。しかし、勧告から充分な年月を経たというのに、これらは一部の好事家が利用するだけで、一般のユーザーが使うことはあまりないように見受けられる。なぜなのだろうか。
CSSやXHTMLの状況を見るには、Webブラウザの発展の経緯を見るのがよいだろう。ここに、簡単にWebの技術とブラウザの歴史を概観してみよう。
CSS 2.0が勧告された1998年にはNetscape社からNetscape
4が、Microsoft社からはInternet
Explorer
4.0がリリースされている。しかし、これらは非常に低いレベルのものでしかなく、有り体にいえば、誤解釈とバグが詰め込まれた非実用的なものにすぎなかった。CSSの解釈は、よくいえば独自、悪くいえば目茶苦茶だった。この頃のサイトデザインは、table
要素を縦横に用いたものが主流であって、これは当時の限界であったといえる。仮にCSSを使おうとしても、まともな表示は期待できなかったのである。
この時点で、CSSはすでにつまずいてしまっているのである。使えない、あるいはわかりにくく厄介である、結果が予測できないという評価がされてしまったといってもいい。
CSSへの対応が比較的まともになるのは、Internet Explorerならバージョン5.5、Netscapeなら6を待たねばならなかった。リリースは両者ともに2000年である。しかし、この時点においてもまだ充分であるとはいえず、特にCSS2.0で用意された要素の大部分は利用できないままであった。この状況はInternet Explorer 6にまで持ち越されている。IE 6のリリースは2001年のことであり、これ以降Microsoft社は、新しいバージョンをリリースしていない。
XHTMLは、名前にXこそついてはいるが、実際の利用に関してはHTML 4.01とさして変わるところがない、非常にシンプルな技術だ。XHTML 1.0とHTML 4にはStrict(厳密)な版が用意されており、私が以降XHTML/HTMLというときは、この厳密版を意識していることを断っておこう。さて、じゃあこれらはなにが厳密なんだろう。
XHTML 1.0、HTML 4厳密版の基本的な姿勢は、情報のレイアウトと見た目のレイアウトを分離しようというものだ。そもそもHTMLの大本になっているSGMLというのは、コンピュータに情報の意味を教えるためのものだったことを知っておいて欲しい。HTMLにおいてもその基本は同じで、なので理想的なHTMLは視覚的な要素を扱わない。視覚的な要素というのは、例えばFONT
要素だとかBIG
/SMALL
要素のことだ。こうした、意味に関係しない要素はいらないとして、排除してしまったのが先にあげた厳密版だ。
XHTML/HTMLが見た目を扱わないとして、じゃあデザインをしたいという欲求はどうしたらいいんだろう。これに関しては心配ない。この見た目を扱おうというのがスタイルシートの役割であって、CSSが現在最も使われているスタイルシート。CSSを使うと、うまくすれば、これまでのTable
を使ったレイアウトよりも柔軟で表現力に富むデザインを実現できる。しかし、CSSには1998年の時点でけちが付いてしまっていて、これを縦横に使う人はいまだに多くないのが現実だ。
さて、見た目を排除したXHTML/HTMLには、一般にユーザーが意識していないような要素属性が用意されていたりする。それは例えばtabindex
属性やaccesskey
属性で、これらをうまく使うと、タブ順を変更したりキーボードショートカットを使ったページ移動ができるようになったりする。最近のブラウザは普通にこれら属性を解釈するので、充分実用的な属性となっている。なので、これに関してはいい。
問題なのは、link
要素ではなかろうか。これは、Webページ間の関係を表しているものと思ってくれていい(もちろん現実にはWebページにとどまるものではないけれど)。ページAから見て次のページがページBであるなら、これを次のページであると記述しておくことができる。目次のページや前のページも、同じようにして記述できる。こうした機能を使うことで、本当だったらもっとスムーズなナビゲーションが期待できたはずなんだ。けれど現実には本文が入るスペースであったはずのbody
要素内に、ごちゃごちゃとナビゲーションのリンクが詰め込まれてしまっている。最近では、ユーザビリティやアクセシビリティという考えに基づいて、一貫して整理されたナビゲーションが用意されることも珍しくないけれど、本当ならこういうのはブラウザが提供してくれるのが一番いい。
私がこの文書を書いている時点で、link
要素に対応しているブラウザというのはどれくらいあるのだろう。まずはLynxだ。そしてiCab、続いてMozillaが対応したんじゃなかったかな。Operaも対応している。W3Mも対応しているらしい。けれど、有名なブラウザなのにここに顔を出さないやつがいる — Internet Explorerだ。MicrosoftのIEはlink
要素に関しては最悪だ。いや、公平に書くならば、AppleのSafariだってそうだ。こいつらは先進的ブラウザみたいな顔をして、もう十年も前からあるlink
要素を無視し続けている。iCabは、2000年の時点ですでにlink
要素をサポートしていたというのに、Internet Explorerは、Webの覇権を握ったとみるや、すっかりやる気を無くしてしまった。バージョンアップもしない、意欲的な発展をすることもない。こんな状況に嫌気をさしたユーザーは、次々とFireFoxに移行しはじめている。
ユーザーのInternet Explorer離れは、私には非常に好都合だ。というのも、多くの人が古くさいブラウザを捨てて、名実ともに先進的なブラウザに移行するということは、これまで試したくても試せなかったことを試せる環境が整うということでもあるからだ。
また、私にとって好都合だったのは、長くその歩みをとめていたiCabが、2004年末にBeta版ながらメジャーバージョンアップをしたことだ。iCabが再び先進ブラウザの座に返り咲く兆しを見せたことで、いよいよ私がやってみたかったことを現実のものにできるようになった。
私のやってみたかったこと、それは私の理想に思うWebサイトのかたちを、実際に作ってみようというものだ。なにが理想であるかは、追々語られるだろう。しかし大切なのは、2005年1月1日現在では利用しづらいと感じられるこのサイトが、数年後には使いやすくなっているかも知れないという可能性である。私は私の理想に基づいてサイトを制作し、現実におもねるつもりはない。現実が追いついてくるのを待ちたいのである。私の理想とするサイトをここに提示して、現在私たちが目にするサイトとはまた違うあり方を見付けたいのだ。
なに、馬鹿な試みであることはわかっている。けれど、これが私のずっとやりたかったことなのだ。
2005年1月1日