使い慣れるということは

 語学の初歩というのは、とにもかくにも辞書が頼りだ。フランス語にとってもそれは同じで、けれど僕は長い間、幾冊かの辞書をだましだまし使ってきた。中でも、最初のフランス語辞書であった「クラウン仏和辞典第3版」に関しては、愛用しているといっても差し支えない。僕のフランス語はこの辞書に始まり、この辞書の上に築かれている。

 とはいえ、一つの辞書に頼り続けるのもまた無理が出てきて、特にこのクラウン第三版は仏作文をするには少々使いにくいところがあって、長く欲しいと思いながら買わずに済ましていた仏和辞典と和仏辞典をこの度購入。「プチ・ロワイヤル仏和辞典[改定新版]」には、クラウン第三版には載っていなかった、可算非可算名詞の別といった、今まで欲しくてたまらなかった記載があって、非常に助かっている。
 この利点から、僕は仏作文をするときにはプチ・ロワイヤルをメインの仏和辞書と決めてしまった。しかし、読む際には相変わらずクラウン第三版。いったいそれはなぜなのだろうか。

 理由は簡単。クラウン第三版にはやはり一日の長があって、僕にとって実に使いやすいのだ。特に動詞の活用。フランス語には細かな動詞の活用があって、不規則に変化する動詞の活用は、巻末に動詞活用表としてまとめられている。しかし、この動詞活用表がくせ者で、まずアルファベ順に並んでいない。いったいどういう根拠から並べられているものなのか、実に謎な並び方をしている。そして、この並びが辞書によってそれぞれ異なっているからややこしい。
 これが困る。なぜなら、クラウンの並びで培ってきた動詞の番号は、ほかの辞書ではまるで活かせないからだ。

 例えば faire という動詞。英語で言うところの to make と to do のふたつの意味を合わせ持つ、実に重要な動詞であり、不規則に活用する。クラウン第三版ではこの動詞は、動詞活用表の63番目に載っているのだが、ほかの辞書ではどうかというと、

faire

 このように、実にばらばら。このため、faireの活用だけを知りたいときに、クラウン以外ではまずはじめにその動詞がリストの何番目なのかということを調べなければならない。ところが、クラウンではさすがに長く使っているだけあって、重要な動詞の活用が表の何番なのか、即座にでるようになっている。faire : 63、aller : 14、venir は tenir と同じで19、pouvoir は32、dire は59、などなど。

 そんなこんなで、たぶん僕はクラウンから離れられない。もちろん離れて別の辞書に移っていってもいいのだけれど、そこまでする意味はあえて持ちえない。
 現在、クラウン仏和辞典は第四版。そろそろ第五版がでると聞いている。第四版は買わずにすましたけれど、第五版は出たらすぐさま買うつもりでいる。きっと、すごくよくなってる。今から、新しい辞書を手に取るときのうれしさに、心躍らしている。


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公開日:2000.11.16
最終更新日:2001.09.02
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