原題:ANNA
1966年/フランス/85分
監督:Pierre KORALNIK
音楽:Serge GAINSBOURG
発売:日本コロムビア(DVD)
アンナは黒縁丸眼鏡の、ぱっとしない女の子。時代は六十年代。ポップカルチャー吹き荒れるパリで、広告代理店社長、セルジュは一人の女の子に恋をする。
その子が、アンナ。
写真に写った彼女を追い続けるセルジュ。けれど、眼鏡を外した写真の彼女が、自分の会社で働いているアンナとは気がつかない。アンナはそんなセルジュを見ながらも名乗ることをしない。自分を独りと思いながら。
全編にわたるフレンチポップスの鬼才、セルジュ・ゲンズブールのシャンソンが、六十年代のちょっと過激で鮮烈なモードともに、この映画を様々な色相に彩ります。ちょっと古くさくさえ思える映画ですが、描かれる情景、情感は今も相変わらず、われわれの中にあり続けるものです。
アンナは気付いていました。セルジュの探し求めるアンナ。それが自分ではなく、セルジュのなかで勝手に思い描かれたアンナであることに。自分が写真の女性だと打ち明ければ、彼を自分のものと出来ることも知っていました。そして、それが束の間に過ぎないことも。その感情は、漫画に出てくる、男に都合よく描かれた女の子に寄せる嫌悪にまで通底しています。セルジュの求める写真の女性も結局はそれに過ぎない。
自己の原風景ともいえる海辺の太陽の真下では自分らしく輝いているアンナですが、都市の生活のなかでは、セルジュが彼女自身を見ていないことを、確信し続けたのです。フィクションのアンナになるのを拒んで彼女は、太陽の真下へと帰っていきます。
われわれは、他者を自分の都合のいいように解釈して、結局はその自分の描いた相手を通してしか、他者を理解しません。都市という、決定的な他者同士が出会う場において、アンナとセルジュの出会いは、今もなお再生産されています。そして、その逆風をさらに強めながら、われわれの本当の自分というものを吹き飛ばそうとする人の勝手な思惑に、アンナも、そして僕も耐ええずにいるのです。
評点:3+
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