溺れる魚

しっぽまであんこ

原題:溺れる魚
2001年/日本/1時間41分

監督:堤幸彦
原作:戸梶圭太
配給:東映


 そもそもこの映画に関してはまったく期待していなかったし、前日に見た知りあいからは、せいぜい書けて二百四十字ってとこ、八百字はきついよ、とまでいわれた。そのせいもあって明かりが消え映画が始まった当初、横柄にはすかいになって見ていた。

 別に敵意を持っていたわけでなし、興味がないわけでもなかったけれど、その興味は知人のことばがどれほど当たっているかという意地悪いものだった。実際出だしは、よくある感じのサイコサスペンス。なんで日本の映画ってこうなんだろう、どこかで見たような見せ方の焼き直し。もっと突き詰めて、自分なりのものを打ち出す気はないのか、埋もれてしまう一過性でいいのかと、くさくさしていたら……

 すっかりだまされました。

 どれもこれも、確信犯的に仕組まれたものだったのでしょう。一家惨殺のトラウマを持った少年が、成長して後に起こす事件というありきたりな形式を底辺に置いてはいるものの、果たしてそれは映画の本筋からは無視され続けて、パロディとコメディの連続。ありきたり山ほどの構成にして、とにかく笑われてなんぼというとんがった見せ方は、はっきり「ありきたり」へのアンチテーゼにしか見えません。

 中でも白眉は仲間由紀恵。動いて下手、しゃべって下手、笑っても下手。あまりのその下手さかげんがうまく映画から対立や軋轢といった劇的要素をぬぐい去って、軽薄さとキッチュ、ぷんぷんする虚構性を全面に押し立てて光っていました。人が死んでも虚構、ストリーキングしても冗談ごと。笑ってすませばそれでいいという爽快さが、鬱屈した気分を一気に晴らしてくれましたよ。ただ教訓めいたシーンがあったのが残念。やるならいっそ馬鹿を貫いて欲しかった。

 映画の出来を考えると五段階評価で2までしかつけられません。けれど、僕はあえて心の八十点をつけたい。猛烈にもう一度見たい映画にして中毒性は抜群。

 侮れんなあ…… 字数足らんよ。


評点:2


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公開日:2001.03.03
最終更新日:2001.08.29
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