原題:Le Roi Danse
2000年/ベルギー・フランス・ドイツ/115分
監督:Gérard Corbiau
宮廷に仕える音楽家リュリは、王に対しことのほか強い愛情を注いでいる。自分の王が最も美しく偉大に見えるよう、我が王が世界を照らす太陽のごとく輝くよう、彼は曲を書き続ける。だが、時代は十七世紀フランス。カトリック色強いフランスで、リュリの王に対する愛が許されるはずもなかった。禁じられた愛に揺れるリュリ。行きつ戻りつする男心が切々と描かれている。
とはいうものの、少々の疑問と当惑も感じるのだ。テーマは嫌いではない。自分の愛に殉じるというそれは、かなりメロドラマっぽいのだけれども、それでも常に語られ受け容れられる類いのものだ。だが、リュリである必然性はどこにあったのだろう? 映画はリュリと太陽王と舞踊、オペラを、歴史的事実を踏まえ描く。では、テーマはリュリだったのか? 十七世紀フランス、太陽王の王宮? テーマがリュリの愛であったのなら、リュリを描いたことがその肝心のテーマを弱めてしまっているし、リュリとその周辺を描くのが目的なら、それはそれ以上のものではなかった。史実とセンセーショナルな設定が混じりあうことで、いったいこの映画がなにについて語りたかったのかが見えなくなってくる。残るのは、当時の音楽がどんな役割を担っていたかという、そのドキュメントばかりだ。
逆にいえば、音楽とそのあり方が、それだけしっかりと描かれていたということである。王の威光を示すためのプロパガンダとしての音楽は、音楽が娯楽のものばかりではなかったことを強く物語る。音楽は常に王の傍にあり、王は音楽をも支配していた。バレエ、オペラは王の専有物として、王の許可のもとに上演される。そのような、文献からでは得難い空気、雰囲気を、ひしひしと感じ、受け止めることが出来る。歴史的ドキュメントとしてこれは、傑出した労作といってよいだろう。
とはいえ、頭からすべてを信じるのも危険。気楽に楽しんで、参考に留めるくらいにしておこう。
評点:3
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