ハリー、見知らぬ友人

ハリー、ああ確かにこんなやつおるわ、おるおる――ほんまか?

原題:Harry, un ami qui vous veut du bien
2000年/フランス/117分

監督:Dominik Moll
発売:ナド・エンタテイメント(DVD)


 予告編には「可笑しくて、コワい」とあったのだけれど、一体僕にはこの映画のどこに「可笑しい」要素があったのかまったく分からないのである。主人公の才能にほれ込み、あの手この手で援助してくれる友人、ハリーの思うところが、ちょっと彼の意図とずれてしまっていて迷惑というのが、いうなればこの映画のあらすじ。と、これだけ聞けばどことなくコメディっぽいものも想像してしまいそうになるが、不気味だったり恐ろしかったりばかりというのが実際なので、「可笑しさ」を期待して見ると肩透かしをくらうことうけあいだ。けれどなにを考えているか微妙に分からない隣人の醸し出すサスペンスという面では一品。特に昨今の、多様な価値観がひしめくゆえに増えた、微妙にずれた人とのつきあいに疲れてしまっている人にとっては、そのコワさもひとしおに違いない。ええ、一体やつはどこまで勘違いしたまま増長するのだろうと、ずっとはらはらしてましたよ。でもそのはらはらが強かった分だけ、すべてが明るみに出ることのないラストには違和感を感じた。妙にすっきりしないカタルシスのなさ。微妙な恐怖や嫌悪が最後まで抜けきらないところがこの映画の面目である。

 この映画がもしミステリーだったならば、ラストはむしろ不満だろう。当然あって然るべき展開があえて外され、解決の中には矛盾が残されている。まるでなんの事件も起こらなかったかのような爽やかさのなかで映画は終わり、なのに事件の痕跡はしっかりと残されているというおかしさ。いや残っているどころではない。まったくの自然さでもって受け容れられてさえいるのだ。この点こそがこの映画における最大の気味悪さである。つまりは、一体誰が一番得をしたか、なのである。

 美しい映像、美しい音楽をともに描かれる美しくない友情のギャップに面白みを見出すのもいいが、それだけではすまされない。いかにものフランス映画臭さが感じられるのである。


評点:4


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公開日:2002.07.21
最終更新日:2002.07.21
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